公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

多様な植物は謎だらけ!

———ほかにもヒメツリガネゴケで興味深い発見がありますか。

例えばヒメツリガネゴケの葉を切って水につけておくと、葉の切れ端からニョキニョキと細胞が伸びて、再び個体となるという高い再生能力をもっています。葉の細胞が、わずか数日でさまざまな細胞に分化できる多能性をもった幹細胞に変化するんですね。

ヒメツリガネゴケの葉を切ると切り口の細胞が幹細胞に変化する

———すごいですね!その秘密はわかったのですか。

2005年から2011年まで、ERATOという国の戦略的創造研究推進プログラムのひとつとして「長谷部分化全能性進化プロジェクト」を立ち上げ、ヒメツリガネゴケの高い再生能力の秘密を探りました。そして、葉の細胞を幹細胞に変える遺伝子を発見し、「ステミン(STEM CELL INDUCING FACTOR、幹細胞(ステムセル)誘導因子: 略してSTEMIN)」と名付けました。
京都大学の山中伸弥先生が発見したiPS細胞は、4つの遺伝子で体細胞が多能性幹細胞になったということでみなさん驚いたわけですが、植物ではステミンひとつで多能性幹細胞が誘導できるのです。葉の細胞が突然、幹細胞に変化しては困るので、通常は厳重に管理されている幹細胞化遺伝子のはたらきを、ステミンがオンにするわけですね。この論文は、2019年7月に「Nature Plants」誌に掲載されました。

通常のヒメツリガネゴケの茎葉体(上図左)とステミン遺伝子を働かせた3日目の茎葉体(上図右)。ステミン遺伝子を働かせると、葉細胞が直接、原糸体幹細胞に変化して伸びていく(下図右)
(基礎生物学研究所の2019.07.09付ニュースリリースより)

▼ERATOの成果を掲載した動画はこちら(29分)
ERATO 長谷部分化全能性進化プロジェクト「驚異の再生力の謎に挑む」
https://sciencechannel.jst.go.jp/D047001/detail/D107001069.html

———最近は食虫植物についても研究しているとか。

食虫植物は小学校のときの自由研究の続きですね。ハエトリソウ、フクロユキノシタを中心に研究しています。先ほどお話ししたように、2017年には小学校時代に一緒に食虫植物を追いかけまわした鵜澤くんにも加わってもらってフクロユキノシタのゲノム解読に成功しました。
フクロユキノシタが虫をとらえるあの落とし穴のような袋が、平面状の葉がどのように変化して出来上がったのか。なんと、温度を変えるだけで、作り分けているんですよ。ゲノム解読に成功したので、今後もっといろいろな謎が解明できるに違いありません。

動画を見てみよう!
The Carnivorous plant Cephalotus follicularis(食虫植物フクロユキノシタ)
https://youtu.be/DCEBnZIIRHM

———ハエトリソウも不思議な食虫植物ですね。

ハエトリソウは、葉の表側に1mm程度のトゲ(感覚毛)が生えています。この小さなトゲに1回触れるだけでは葉は閉じませんが、2回触れると葉が閉じて虫を捕まえる。植物なので神経も筋肉もないはずなのに、刺激を受けると葉っぱを閉じるんです。いったいどんな仕組みで回数を数えているのか実に不思議でしょう?遺伝子操作したハエトリソウを用いてカルシウムのシグナルを可視化することで、その謎を解こうと挑戦していて、近々面白い成果が発表できそうなんですよ。

北米の自生地のハエトリソウ

———先生にとって植物研究の醍醐味とは?

ぼく自身は植物が好きでたまらないから、植物を見ているだけで楽しいのですが、客観的にいえば、やはりまだまだ研究されていないところですね。知らないことが多くて、そこが、興味がつきないところだと思います。動物と違って環境に対して動けないのが植物ですが、動けないぶんだけ何か不思議な機構を持っているに違いない。植物ってものすごく多様なので、何か新しい金の鉱脈がきっとあると期待しているんですよ。

———若い読者にメッセージをお願いします。

姪が高校の工作の授業で作ったお皿を見てください。「人生楽しんだもん勝ち」。「素晴らしい」と言ってもらって帰ってきたんだけど、もうこの言葉に尽きますね。

世界最大の種子である「オオミヤシ」を手に

先生の研究室には、植物採取で訪れた世界30か国の植物の種をはじめ、植物に関係のある置き物がズラリ

(2020年2月26日更新)