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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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第62回 小さい頃から植物ひとすじ遺伝子を解析し、進化や植物の不思議を解き明かす 基礎生物学研究所 生物進化研究部門 教授 長谷部 光泰

2歳のころから植物が好きになり、小学校時代は食虫植物の研究会に参加するなど、一貫して植物への好奇心を抱き続けてきた長谷部先生。遺伝子を解析することで植物の進化や系統を明らかにし、定説を次々に覆してきた。最近では、たった一つの遺伝子がはたらくだけで葉の細胞から1個体をつくりだす「ステミン遺伝子」を発見したほか、食虫植物の不思議なメカニズムも追究している。

profile

長谷部 光泰(はせべ・みつやす)
1963年千葉県生まれ。1987年東京大学理学部生物学科卒業。91年同大学大学院理学系研究科博士課程中退、同大学助手。92年博士(理学)取得。93年日本学術振興会海外特別研究員としてパデュー大学へ渡米。96年基礎生物学研究所助教授。2000年より教授。総合研究大学院大学生命科学研究科教授併任。日本植物学会学術賞、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞、日本進化学会賞、アメリカ植物学会ペルトン賞などを受賞。趣味は植物を育てて観察すること。
長谷部研究室HP:http://www.nibb.ac.jp/~evodevo/index.html

小学生のときから植物大好き。大人と一緒に食虫植物のフィールドワーク

———植物に興味を持ち始めたのはいつごろからですか?

母によると2歳ぐらいからだとか。千葉に住んでいたんですが、庭に小さな花壇があってそこで花を植えるのがお気に入り。小学校1年生のときにデパートで売られているユリの球根を見て、なんてかっこいいんだろう!と魅入られことを覚えています。

幼稚園のころ。向かって左が長谷部先生

———すると小さいころから植物の標本づくりに熱中していた?

昆虫採集も好きで、小学校1年生のときは昆虫採集の自由研究もしたんですが、生き物を殺すのがいやで、2年生からはもっぱら植物採集でしたね。5年と6年の夏休みの自由研究では、千葉県内の食虫植物について調べました。

———当時から食虫植物の研究をしていたんですか!

5年のときの同級生の鵜澤武俊くんが食虫植物のマニアで、彼の家で食虫植物を見たのが食虫植物との出会いです。彼は手づくりの小さな温室でモウセンゴケとかハエトリソウ、サラセニア、ウツボカズラなんかを育てていて、あれからいっぺんに食虫植物が好きになりました。
鵜澤くんは食虫植物研究会というアマチュアの研究会にも出入りしていて、ぼくも一緒に千葉から東京まで総武線に乗って会合に参加しました。会を主宰していたのは日本歯科大学の小宮定志先生という方で、小宮先生の様子を見て、大学の先生って朝から晩まで植物を見ていてずるいなと思う一方、こんないい仕事があるのなら将来はこういう職業に就きたいと強く思うようになりました。

———大人に交じってとはすごい。小学生は2人だけだったんですか?

そうです。まわりは50代、60代の大人ばかり。このとき手に入れたのが広島大学にいらした近藤勝彦先生が書いた『食虫植物』という本でした。ここに載っている食虫植物の名前を全部覚えて、鵜澤くんと2人で食虫植物の名前でしりとりをしたことも(笑)。休みの日になると、研究会の人たちと新潟へ行ったり、新幹線で豊橋まで行ったり。食虫植物が生えているところに連れて行ってもらいましたね。

ぼろぼろになるまで読んだ近藤勝彦著『食虫植物』
研究者になってから、近藤先生のところにこの本を持参し、サインしてもらったという。

———ご両親は先生の熱中ぶりについて何かおっしゃってましたか?

年寄りみたいだと言われました(笑)。でも父は、日曜大工でビニールハウスを作ってくれて、そこで食虫植物を育てました。
実は鵜澤くんは、今は大阪教育大学で先生をしていて、2017年に食虫植物のフクロユキノシタのゲノム解読の論文を共著で書くことになるんです。小学校高学年の共同研究がついに実を結んだわけで、お互い感無量でしたね。

———中学でも“植物愛”は続いたのですか。

中学校では生物部に入りました。そのときも夏休みの自由研究で、5人ぐらいの仲間とともにウツボカズラという食虫植物の消化酵素について調べました。図書館で一生懸命、中学生なりにアミノ酸だとかタンパク質の酵素は何かを調べたんですが、わからないことだらけ。そこで当時慶應義塾大学にいらっしゃった英清道先生がウツボカズラについて詳しいと聞きつけ、「消化酵素の実験をさせてください」と手紙を書いたところ、「おいで」と言ってくださいました。それで夏休みに慶應義塾大学の実験室でウツボカズラの消化液について実験したんです。

———よくOKしてもらえましたね。

すごくいい先生でしたね。友達と2人でお弁当を持って出かけ、2日間実験に取り組みました。