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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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研究と臨床の両立をめざし、目で見てわかる皮膚科を選択

———先生がそもそも皮膚科医になろうと思ったのは?

学生になった最初のころは内科系を志望していたんですよ。研究と臨床の両方できる内科医になりたいと思っていたんですが、そもそも研究というのは自分の中でわき起こってくる医学的な疑問を解決したくて研究するわけですよね。しかし、例えば高血圧の場合、血圧を測れば180とかの数字は出てくるけれど、高血圧そのものを目で見ることはできません。糖尿病にしても同じだし、喘息だって咳をしているのはわかるけど、肺の中がどうなっているか外から見ることはできません。

———皮膚なら外から見えますね。

そうなんです。アレルギーという病気にしても、アトピー性皮膚炎だったら皮膚のここが赤くなって、ここがかゆくて、ここが盛り上がっているとか、ちゃんと目で見えるし、毎日見ることによって、病気の変化を追うこともできる。医者が正しい治療をやっているかどうかもすぐにわかるわけですよね。
目で見えるだけでなく、触ってあたたかいとか、サラサラあるいはザラザラしているとか、あるいはにおいを嗅いで何か変な感染症を起こしているのではないかと疑うことも可能になります。五感を使った診療ができる領域としても、皮膚が一番ではないかと思いました。
例えば、全身性エリテマトーデスという難病の患者さんは、いきなり膠原病内科を受診するのではなく、多くはほっぺが赤くなったということで皮膚科に来るんですね。患者さんの日常生活と関わりあいながら、多様な疾患のゲートキーパーとして重要な役割を担っているんですよ。

———たしかに、顔色が悪いとか、湿疹が出たりとか、いろいろな疾患が皮膚からわかることも多いですね。

皮膚の病気って命にかかわるものは少ないかもしれませんが、目に見える病気だけに、患者さんにとって苦しみになることがけっこう多いと思うんですよ。例えば円形脱毛症です。小さく円形に髪が抜ける程度だったら隠せば見えなくなるけれど、ひどい人の場合は頭の髪の毛がすべてなくなってしまう。まつ毛や体毛がすべてなくなることすらあります。

———原因は何ですか?

自己免疫疾患という免疫の病気が原因です。髪の毛が抜けても命にはかかわらないかもしれないけど、小学校のころにそんなことになったら、本人は学校に行きたくなくなるだろうし、それこそいじめの被害にあったりする心配だってあります。だから、医学部に入った最初のころは患者さんの命を救いたいという思いがすごく強かったけれど、それだけではなくて、治療することで患者さんの心を癒してあげるとか、QOL(生活の質)がすごく上がるとか、そういう病気を扱うことも大事なのではないかと思うようになっていったんです。

———ワシントン大学での臨床留学から戻られた翌年に、大学院の薬理学教室で免疫についての研究を始められました。なぜ免疫なのでしょう?

皮膚の病気に深く関係しているのが免疫アレルギーです。臨床と研究の両方をやる上で免疫というテーマは欠かせないと思いました。今のぼくの専門も皮膚免疫です。

———大学院での研究の思い出を教えてください。

1年365日、どっぷり研究漬けでした。大学院3年のときに結婚したんですが、結婚式当日も朝研究して、11時の結婚式に行ったほどです。こういうことを言うと、今の「働き方改革」上、問題ですが…。だれも知らないことを解き明かすことができる──もちろんできなかったりすることも多いけれど──ということが大きな喜びでした。
例えば高校生のときというのは、問題集を開いて隣りのページをめくれば必ず答えがあります。でもぼくは、答えがあるかないかわからないような問題に何年もかけてしつこく取り組んでいって、何とか形になっていくというプロセスがとてもエキサイティングだと思っているんですよ。
そういう体験が大学院のときにできて、これはやっぱり何とか続けていきたいと思いました。仲間の中には臨床をやめて研究一本でやっていくという人もいるけれど、ぼくは臨床の中から生まれた疑問を解決していくことが大切だと考え、臨床も続けていくことにしたのです。