公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

世界初となるアトピー性皮膚炎の新タイプの薬を共同開発

———産業医科大に3年弱いたあと、京大に戻り今日に至っているわけですが、今、力を入れておられることは?

とりあえず今は、アトピーを治すことを通してアレルギー全般を克服したいというのが一番強くありますね。あともう一つは、イメージング技術を使って皮膚を丸裸にするというか、皮膚を時空間的にとらえていきたい。そして、免疫細胞とそれ以外の細胞、神経とか皮下脂肪とか線維芽細胞とか、免疫と関係がないといわれている細胞がいろいろありますが、そういう細胞同士の相互作用をぜひとも解明したい。そこに私たちの生活が関係しているわけですから、食生活とどうかかわるかとか、体を動かしたりすることとどう関係しているか、代謝、あるいは腸管との関係なども含めて、免疫の本質に迫っていきたいと思っています。

———皮膚はほかの臓器とも深く関係しているんですね。

例えば、大阪大学の坂口志文先生が発見された制御性T細胞は免疫を抑える細胞ですね。免疫を起こす細胞と抑える細胞がどのようにバランスを保っているのか、その細胞がどうして決まってくるのか、その細胞同士がどこに、どういう状況で増えたり減ったりするのかとか、とても興味があります。皮膚にいる免疫細胞は、皮膚から腸管に行ったりすることもあるんですよ。逆に腸管の細胞が皮膚にくることもあります。
昔からよく、不衛生なところで育った人はアトピーが少ないといわれますが、汚い手で食べたりするから雑菌もたくさん腸の中へ入っていくけど、おかげで自然免疫が働くようになって、それが皮膚にも影響を及ぼしているわけです。そういう腸と皮膚とのクロストークとか、皮膚で起こることがほかの臓器とどのように相互作用しているのかを調べることで、生体のシステムがどうなっているかを解明していきたいと考えているんです。

———アトピーは今、多くの方が苦しんでいますね。

今、とても興味を持っているのは「アレルギーマーチ」とか「アトピーマーチ」と呼ばれるものです。これは、乳幼児期にアトピーのある子は、その後も食物アレルギーや気管支喘息、アレルギー性鼻炎と次々といろいろなアレルギー疾患に罹ってしまうというもので、皮膚のバリアが弱いからなんですね。ということは、逆にいえば、小さい子どものうちにアトピーをきちんと治せば、食物アレルギーにも喘息や鼻炎にもならずに、アレルギーマーチをとめられる可能性もある。
また皮膚のバリアがしっかりして、アレルゲンが皮膚の中に入らなければ、アトピーにもほかのアレルギーにもならないのではないか、そういう仮説が立てられます。それを検証しようと、現在、薬の開発などに取り組んでいるところです。

———アトピーにも、ほかのアレルギーにもかからなくする予防薬の開発ですね。大いに期待したいです。

ちなみに、予防薬ではありませんが、新しいタイプのアトピー性皮膚炎の治療薬が近いうちに出る予定なんですよ。「デルゴシチニブ」という塗り薬で、うちの研究室と日本たばこ産業(JT)とで開発した薬です。これは、細胞内の免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を果たすヤヌスキナーゼ(JAK)を阻害して、免疫反応の過剰な活性化を抑制することで効果を発揮する世界初の非ステロイド性の塗り薬で、今年の1月に厚労省から承認されました。

———アトピーのかゆみを抑える薬の開発も行っているとか。

かゆみという場合、よくいわれるのはヒスタミンの関与ですよね。たしかに蕁麻疹の患者さんは抗ヒスタミン薬を飲むとよくなるんです。でも、アトピーの患者さんは抗ヒスタミン薬を飲んでもよくならない。ということは、アトピーのかゆみはヒスタミンではない別の何かが関係しているのではないかということで我々が着目したのが、インターロイキン-31(IL-31)という物質です。IL-31受容体を標的にした中和抗体の開発を中外製薬と進めてきており、現在、第3相の臨床試験が終わった段階です。
アトピー患者さんのつらさは、見た目のつらさもありますが、かゆくて掻いて血が出たり、ひどい場合は目の周りを掻きむしってしまうことによって、ひどい場合は視力が落ちて失明するケースもあるので、かゆみを抑えられるだけでも患者さんの満足度が上がるんです。

———皮膚の病気は免疫や全身のからだの状態とも関係していて、臨床の知見を生かした研究がどんどん進んでいることを伺って、とても心強いです。

臨床と臨床研究・基礎研究は三位一体だとぼくは考えています。動物や細胞を使ってすることだけが基礎研究ではない。その病気のことを深く知ろうとする作業そのものが研究であり、臨床と研究が車の両輪となって医学が進んでいくんです。
そのなかでぼくは皮膚を選びました。いまの医学は臓器別に個別化されたところがありますが、本質を極めていけば、出発点は皮膚であっても全体につながるいい仕事ができると確信しています。
医学部の中ではメジャーが内科とか外科で、マイナーは皮膚科などといわれることも多いのですが、ぼくはそうは思いません。非常に重要な臓器だと思っています。何しろ人間のからだで一番大きい臓器ですからね。皮膚は全身にあって、重さだって10数㎏もあるんですよ。

———これだけ臨床と研究とで大忙しのうえ、先生はマラソンも3時間を切る実力で、トレイルランニングもなさっているとか。走り始めたきっかけは何ですか。

40歳になったのを契機に、自分で手を動かして実験することをやめたんです。そうしたらストレスが溜まって、からだを動かそうと思ったんですけど、テニスやゴルフって相手が必要だったり、天気に左右されたり、急な予定変更が難しい。でも走るのだったら、30分だけどちょっと走ろうかとか取り組みやすいですよね。出張先にも運動靴を持っていって朝早く起きて街を走るととても気持ちがいい。
それと、鏑木毅というトレイルランナーを取り上げたNHKスペシャルで、彼がUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)というモンブランを取り巻く山岳地帯170kmを走る大会で完走した姿を見て、ぼくもUTMBで走りたいと思ったんです。こうして、1年目のシーズンに、福井駅前ハーフマラソン、千歳でのフルマラソン、60kmの丹後ウルトラマラソンを走りました。

———1年目からフルマラソン完走なんてすごいですね!

ぼくのマラソンと研究への姿勢って、共通点があるんです。自分の限界以上のことに挑戦することを目標に掲げ、失敗して限界を知ると、こんどはその限界を超えようと工夫する。頭の中であれこれ考えるより、実際に経験して、その道のりが厳しければ厳しいほど達成したときに喜びも大きくなる。5年目にしてマラソンで3時間切りのサブスリーを達成して、47歳のときに念願のUTMB完走を果たしました。

2017年8月UTMBレース。レース途中。後ろはモンブラン

完走後に表彰台でポーズ(左は妻)。タイムは39時間21分22秒
(写真をクリックすると全景が表示されます)

メダルの数々

比叡山ふもとの自宅から、毎朝走って研究室に。鴨川沿いを走ったり、山ルートで走ったりと日々トレーニング

———最後に高校生へのメッセージを。

とにかく自分の限界を勝手に小さく置かないで、無限の可能性があると思ってどんどんチャレンジしてほしい。ぼくもアメリカのワシントン大学に臨床留学したとき、ボロボロの思いをしましたが、自分の可能性を信じました。朝の7時ぐらいから回診があるんですけど、それまで完璧に準備しないといけなかったので朝の4時とか5時ぐらいに病院に行って、患者さんのカルテを全部チェックして、仕事が終わったあと車で帰る途中、もうあまりにも眠いから車をとめて道路わきで仮眠をとったり…。目の前に病気で苦しむ患者さんがいて、何とかしなければいけないという思いがあったからできたのだと思います。
失敗したっていいじゃないですか。大事なのは、チャレンジすることです。
選択肢が2つあったときに、難しいことをやるというのがぼくの信条ですが、その理由は、難しくて予想もしないところから得られる喜びのほうが大きいし、失敗したときも悔しさがむしろバネになるからです。失敗はネガティブではなく、失敗することのほうがむしろ大切で、たくさん失敗することを勧めます。

(2020年4月14日更新)