公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

ヒトにないものがサルにあるナゾの解明。私がやらなくてどうする

———現在はどんな研究を?

サブテロメアがいろいろな生命現象にどのようにかかわっているかを、分子レベルで明らかにする研究に取り組んでいます。今も分裂酵母を使って研究していますが、数年前からはチンパンジーなどの大型類人猿の細胞も扱っています。

———よりヒトに近い生物での研究ですね。

チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンの4種類が大型類人猿という分類で、その4種類とヒトが同じヒト科の生物です。この4種類のうち、進化的にヒトに最も近いといわれているのがチンパンジー。共通のDNA配列の違いがわずか数%と言われているので、ゲノムDNA配列がほとんど同じという誤解をされていますが、実は染色体の構造には両者が比較できないような大きく違うところがあって、その大きな違いの一つが染色体末端なんです。

———それがサブテロメアですか?

ヒトも分裂酵母も染色体の末端はテロメア-サブテロメアと並んでいるんですけども、チンパンジーなど大型類人猿の場合は、テロメア-違うもの-サブテロメアの順です。この違うものが「StSat」と呼ばれるサブターミナルサテライトで、テロメアでもサブテロメアでもない繰り返し配列が並んでいます。

———StSatというのはヒトにはないんですか?

ヒトにはまったくないものです。ヒトと大型類人猿の染色体構造の違いは他にもあるんですけども、染色体末端にこんな大きな違いがあるなら、「私がやらなくてどうする!」と思って・・・(笑)。

———StSatの働きは?

まったく不明です。そこで、StSat領域の染色体高次構造がどのように形成され、どんな機能を果たしているかを分子レベルで研究しています。もともとヒトと大型類人猿の共通祖先がStSatをもっていて、ヒトは失くしてしまったと考えられていますが、もしかしたらStSatの有無がヒトと大型類人猿の性質の違いをもたらす原因の一つである可能性もあるかもしれないと思って研究しているところです。

———実にわくわくするテーマですね!

実は、サルを使った研究をやり始めたのは、京大の霊長類研究所の研究者から「加納さん、サブテロメアをやっているんだったら、ぜひこれをやりませんか」って誘われたからなんですよ。加納さんしかやる人がいないみたいな感じで言われて、私の研究人生で初めて他人から与えてもらったテーマですね。

———研究の醍醐味は?

やっぱり何か発見したときに、生き物の神さまはこういうことを考えていたのかとわかって、鳥肌がたつ瞬間ですね。ずっと閉じられていたブラックボックスの蓋を世界で一番に自分が開けて、箱の中からのまぶしい光を浴びる瞬間です。

———これまで鳥肌がたった瞬間は? 先生はサブテロメア領域でシュゴシン(守護神)タンパク質がサブテロメアの染色体構造や遺伝子群の発現を制御していることを発見していますが、この発見のときはどうでしたか?

ある学会で、一人の研究者が、分裂酵母の染色体のテロメアに近い部分がDNA染色剤で非常に濃く染まる、つまりものすごく凝縮した構造をとっているという発表を行ったんです。それを聞いていて、何の確証もなかったけれど、もしかしたらそれは私たちが解析中だったサブテロメアでのシュゴシンタンパク質の働きかもしれないとピンときました。もうほとんど勘というか感の世界ですね。よく「どうしてそう思ったの?」と聞かれるんですが、理由なんかないんです。でも、私の予感って不思議なくらいほぼ当たるんですよ。

———若い人たちにメッセージを。

今はネットの時代で、ネットに出ている偏った情報をまるで本当のことのように信じてしまう傾向があるのは非常によくないと思います。やはり何ごとも自分で体験してほしいです。
それと、「何がおもしろいかわからない」という人が今はとても多いですね。何がおもしろいかわからないから、将来を選べないというわけです。でも、それはいろんなことを体験していないからだと私は思います。
若いときはいろいろなことをまず自分でやってみることが大事。楽しみというのは自分が行動してこそ生まれるのであって、他人から楽しみを与えてもらおうなんて受け身の姿勢はやめるべきです。それでは人生、楽しくなるわけがありませんから。
だから体験する機会も、先生や親に与えてもらうのではなく、自分から機会をつくってほしい。そうすればきっと、何か楽しいことが自然にあふれ出てくると思いますよ。