中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

心臓が止まって見えれば、手術が格段に容易になる

脳ばかりではなく、心臓手術を支援するロボットの研究も進んでいる。
たとえば、冠動脈バイパス手術を例にとってみよう。冠動脈は心臓の細胞に酸素や栄養を与えている大切な血管である。この冠動脈が詰まったり狭くなったりすると、心臓に血液が流れにくくなる。そこで、狭くなった血管の代わりにバイパス(新しい血管の通路)をつくって縫い合わせるのがこの手術である。かつては人工心肺を使って一時心臓を止めた状態で手術を行っていたが、心臓の筋肉(心筋)を保護できる、輸血を少なくできる、入院期間を短縮できるなどの理由から、最近では心臓が動いたままの状態で手術することが主流になってきた。
しかし、私たちの心臓は休むことなく拍動(脈を打っている)しているので、手術にあたっては相当の熟練したスキルが要求される。

心拍補償ロボットシステムの全体

心拍補償ロボットシステムの全体

「患者の心臓の拍動に合わせて、手を微妙に動かしながら手術を行う名医は『神の手』を持っているといわれます。それほど難手術なわけですが、私どもの研究室では、岐阜大学大学院高度先進外科学分野の竹村博文教授と連携して、“心拍の動きを補償する手術補助ロボットシステム”を開発しました。これは、心臓の拍動の動きに合わせて2本のロボットが、心臓の拍動と同じように動くことによって、まるで心臓の動きが止まったかのように安定させて画面に映し出すシステムです」
心臓が止まっているように見える状態とは、たとえていえば、床の上ではねているボールを固定したカメラで横から撮影すれば、ボールは激しく上下して見えるが、はねているボールの動きに合わせてカメラを上下させて撮影すれば、ボールが止まって見えるのと同じ理屈だ。画面上では止まって見えるため、医師の技術的、精神的な負担を軽くすることができるという。
2004年から08年まで、ブタの心臓を使って実験してきたが、実際に臨床の場で使うためにはさらに精度を上げる必要がある。脳や心臓手術ともなれば、少しでもミスがあると患者さんの命に直結する。それだけに、最高レベルの理工学的技術が要求されるのだ。
このほか、胎児の段階で障害などが見つかった場合に、お母さんのおなかの中で治療できる胎児外科手術のニーズも高い。医学と理工学の連携が求められる分野が広がっているのだ。

下方の6本の細いアームは、細かく動いて心拍の動きを再現する。アームの上には鶏肉でつくった模擬心臓が載せられている。

下方の6本の細いアームは、細かく動いて心拍の動きを再現する。アームの上には鶏肉でつくった模擬心臓が載せられている。

モニターに映し出された、静止しているように見える心臓の画像を見ながら、医師がマニュピレーターを操作し手術を行う。

モニターに映し出された、静止しているように見える心臓の画像を見ながら、医師がマニュピレーターを操作し手術を行う。

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