中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

高齢社会に役立つ福祉・介護ロボットの研究

藤江研究室のもう一つの研究の柱が、福祉・介護ロボットの分野である。高齢社会が急ピッチで進んでいる日本では、お年寄りや身体に障害を持つ人の介護が社会的に大きな課題となっている。そこで、登場するのが福祉・介護ロボットだ。
「年をとると、からだの機能が低下して、行動半径が狭くなり、それがまたからだの機能を低下させるという悪循環に陥ってしまいます。こうした悪循環を断ち切るためにも、高齢者や身体に障害のある人、それらの人を支援する人たちのためのサポートシステムが必要なのです」
藤江研究室では、高齢者の手の震えを抑えるロボット、筋力が衰えたため歩行がままならないお年寄り、身体障害者のための移動支援機器、片麻痺をおこしている患者の歩行支援ロボットなど、さまざまな福祉・介護ロボットの研究に力を注いでいる。

案内してくれた渡邉峰生さん

案内してくれた渡邉峰生さん

これらの福祉・介護ロボットの研究を展示しているのが、早稲田大学理工学部のキャンパス近くに2009年5月にオープンした「RTフロンティア」である。早稲田大学理工学研究科生命理工学専攻博士課程1年生で藤江研究室の渡邉峰生さんに案内してもらうことにした。
「RTフロンティア」は、「人とロボットの共生」を目標の一つに掲げる文部科学省グローバルCOEプログラム「グローバルロボットアカデミア」の研究活動拠点として、一般の人が実際にロボットを試用することができる施設を目指しているという。

建物の中に入ると、学生たちが研究の真っ最中で、フロアのあちらこちらで福祉ロボットの改良に取り組んでいた 。そのうちの一つが高齢者やリハビリ中の患者などが、自力で歩くのをサポートする移動支援ロボット「Tread-Walk」だ。高さが90cm、2つのハンドルがついたランニングマシンのような形をしている。
「この福祉ロボットは、筋力が弱って通常の速度で歩けない人が利用するもので、ベルトの上を歩くと、その強さや向きを感知して、前進・方向転換を行います。モーターで足の力の2~3倍まで増幅できるので、移動がラクになります。1号機はルームランナーのようなタイプだったのですが、その後試作を重ね、左右別々のベルトとしました」
横浜にあるリハビリセンターでアドバイスを受け、実用化に向け改良を重ねているという。

Tread-Walk

Tread-Walk

坐骨による体重免荷装置

坐骨による体重免荷装置

渡邉さんの研究は、「骨盤保持による体重免荷装置の開発」というものだ。
「たとえば、筋力が低下して体重を支えきれなくなり立って歩くことが難しいお年寄りや、大腿骨を骨折した場合の手術後のリハビリでは、脚に徐々に体重をかけることが必要です。これまではハーネスという器具を使って上からからだを支えて訓練していたのですが、よりからだに負担がかからずに、かつ歩く際の自由度をもたせるために、坐骨(骨盤)でからだを支える歩行支援ロボットを開発しました」

渡邉さんは、将来、自分でビジネスを興したいと思っているのだそうだ。藤江先生の研究が社会に役立つロボットの研究であることに共感し、また、ビジネスにも結びつけることができると、藤江研究室の門をたたいたという。
「私たちの研究で大切なのは、ロボットが人に動きを強制させるのではなく、逆に人の動きをどうロボットに伝え、人に合わせて動かすようにするのかということです。主役はあくまで人で、直感的に操作できるものでなくてはなりません。そのためにも、ただロボットだけ造っていればいいというのではなく、人の動作や歩行を注意深く観察することが大切なんです」と、渡邉さんは、研究室の基本姿勢について語ってくれた。

福祉・介護ロボットのいろいろ
  • 日常動作支援ロボット
    患者さんが寝返りを打つとき、どんな筋肉の動きをするかを事前にキャッチ。寝返りの支援をする。
坐骨による体重免荷装置
  • つえナビ
    視覚障害者誘導用ブロックに埋められたICタグから発信される位置情報を利用して、視覚障害者が、駅の方向にいきたいときには、駅方向に杖が導いてくれるロボット杖。
坐骨による体重免荷装置
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