中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

マウスの脳の視覚野、聴覚野を観察

マウスの頭部を切開して観察

午後からは、フラビン蛋白蛍光イメージングという手法によって、脳の機能を解析し、新しい現象を発見する研究を体験することになった。フラビン蛋白蛍光イメージングというのは、脳が活動して興奮すると、細胞の中にあるエネルギーを生産するミトコンドリアの酸素代謝が進み、フラビン蛋白という物質が酸化型に変化する。酸化型になったフラビン蛋白は、青い照射光のもとでは緑色に自家蛍光を発するため、この蛍光をとらえれば脳の活動を見ることができるというものだ。

フラビン蛋白蛍光反応の一例

フラビン蛋白蛍光反応の一例。皮膚の振動刺激(50ヘルツ、1秒)によって起こした体性感覚野のフラビン蛋白蛍光反応を示したもの。前肢を刺激。刺激後0.3秒で明確な反応が出現し、0.8秒でピークに達する。

脳の活動の中でも、今回高校生が観察するのは、視覚野、聴覚野、体性感覚野の活動である。まず、視覚野の活動を観察する。研究員が麻酔をかけた実験用のマウスの頭部を切開して高校生に見せながら説明していく。
「こうして切開するとマウスの場合、骨越しに脳を簡単に見ることができて脳研究にはとても便利なんです。ほら、見てごらんなさい、脳の血管が見えるでしょう」
高校生たちは代わる代わるマウスの脳を見ながら、マウスやラットなどの実験動物が、脳研究に重要な役割を担っていることを実感していった。
研究員は暗室でLEDの光をマウスに見せて、このときの脳の活動の様子を蛍光イメージング手法でとらえてコンピュータで分析し、目から入ってきた情報を受け取る視覚野の活動を可視化しようと何度も実験を繰り返していく。研究の成果は、こうした地道な努力の積み重ねであることを、高校生たちは直に知ることができたようだ。
高校生たちは、視覚野の中でも、目から入ってくる視覚情報を最初に処理する一次視覚野の活動や、さらに高次の視覚情報を処理する視覚野の活動の画像化なども研究員に見せてもらっていた。


脳は音をどのように認識する?

視覚野の次は聴覚野の研究だ。脳が音をどのように認識していくのかを、ほかの研究員が説明をはじめる。実験方法は視覚野と同じで、実験用マウスの頭皮を切開して、音を聞かせると、その刺激に反応した聴覚野に蛍光が現れるので、それを顕微鏡で観察する。
「聴覚野はマウスの頭部の横側にあり、前聴覚野と一次聴覚野からできています。一次聴覚野では、聞かせる音(周波数)の高さによって、活動する場所がちょっとずつ違ってきます。けれど、ピーとか、ブルブルとか音の種類を変えると、一次聴覚野ではあまり変わらないが、前聴覚野では違いが出てきます」
さらに、マウスに特定の音(A音)を聞かせてから甘い水を与え、別の特定の音(B音)を聞かせた場合は何も与えないということを繰り返すと、マウスは学習をして、B音を聞かせても蛍光反応が弱くなる、つまり脳がその音を無視しようとすることなどが研究員によって明らかにされていった。こうした実験を通じて、聴覚野がどんな場所で、どのように活動しているかを高校生たちはリアルに理解できたようだ。


研究者の仕事とは

そして、サイエンスキャンプの授業は、体性感覚野の研究に進んだ。体性感覚野は皮膚感覚を処理する部位にあたり、マウスの場合はヒゲに対応した領域があるのだという。
「マウスは眼が悪いので、狭いところを歩くにしても、ヒゲで周りの情報を得て進むわけです。そのためには、ヒゲ一本一本に対応する脳の領域があるのです」
体性感覚野の実験では、ヒゲを剃ったマウスと、ヒゲを剃っていないマウスの反応の違いなどが調べられていった。
このほか、高校生たちは、視覚野、聴覚野、体性感覚野のそれぞれの領域の機能や特徴などについても研究員から説明を受けた。

こうした研究の内容ばかりではなく、高校生たちが一様に関心をもったことがあった。それは研究者という仕事についてであった。
「研究者の仕事って、たいへんそうだけれど、おもしろいですか?」という質問が、それぞれの研究者に繰り返し投げかけられた。「好きなことを仕事にしているから、楽しいですよ。これでお金がもうかれば言うことなしなんだけれど」と冗談を交えて研究者が答えてくれた。これまで漠然と考えていた研究者の日常が、ほんの一端ではあるが高校生たちに垣間見えたのかもしれない。

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