中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

SCIENCE TOPICS いま注目の最先端研究・技術探検!

第9回 DDSは、細胞を元気にさせる再生医療の切り札的な技術だ! ~京都大学 再生医科学研究所 田畑 泰彦教授を訪ねて

いま、がん治療や免疫治療で注目されている技術のひとつにDDS(Drug Delivery Systemドラッグ・デリバリー・システム)がある。治療対象となる臓器や組織、病原体などに薬剤を効率よく送り込むための新素材や技術を指す言葉だが、DDS研究の第一人者の田畑先生は、「DDSは単に最先端の薬のための技術にとどまらない。工学・医学・薬学を融合して、再生医療の発展に重要な役割を果たす21世紀の基盤技術だ」と力説する。DDSと先端の医療材料がもたらす可能性とは───?

細胞には家と食べ物が必要だ

「再生医療というと皆さん、iPS細胞やES細胞を培養して移植する治療を思い浮かべますが、大いなる誤解です。細胞を体内に入れるだけでは、ほとんどが死んでしまいます。細胞だって、私たちと同じように、安心できる家の中に住んで、栄養となる食べ物を食べないと生きていられないんですよ、わかります?」
田畑先生の口から速射砲のように言葉が飛び出した。
「私たちが風邪をひいたときは、おいしいものを食べてゆっくり休みますよね。ピューピューすきま風が入る壁がはがれてしまいそうな家で、まずくて栄養にならないものを食べているより、あたたかい家でおいしいご飯を食べていれば、すぐに元気になる。細胞も同じです。再生医療の原点は、細胞が元気になる環境を整えて、細胞が増殖したり分化(成長して機能を持つようになること)したりしてからだを治そうとする力を助けてやる、つまり、生物が本来持っている自然治癒力を利用してからだを治す治療のことなんです」
細胞がすむ家とは、タンパク質と多糖からなる「細胞外マトリックス」と呼ばれる細胞のための天然の足場のことである。組織を維持する骨格であると同時に、細胞同士がくっついたり、増殖・分化するための土台の役割を果たす。一方、細胞が元気になるための栄養とは、タンパク質や細胞を増殖させたり分化させる働きを持つ因子のことだ。

イラスト:細胞がすむ家

「病気のときは、台所に行くどころか、食べ物に手を伸ばすのもしんどいですよね。できれば、お皿に盛って枕元に持ってきて、箸で食べさせてほしいでしょ。この皿や箸に相当するものがDDSなんです。私は細胞を元気にするための住み心地のよい家や、栄養を効率よく口元に運ぶための医療材料の研究を長年続けてきました。こうしたモノづくりの技術こそが、再生医療を進展させるために必要不可欠なのです」

弱った細胞に栄養を与えるときの箸やお皿にあたるものがDDSだよ。
田畑教授
田畑 泰彦(たばた やすひこ)京都大学 再生医科学研究所 教授

1959年大阪府生まれ。81年京都大学工学部高分子化学科卒業。83年同大学大学院工学研究科博士前期課程高分子化学専攻修了。91~92年米国マサチューセッツ工科大学、米国ハーバード大学医学部外科客員研究員。96年生体医療工学研究センター助教授。2000年より現職。工学博士、医学博士、薬学博士の3つの博士号を持つ。著書に『絵で見てわかるナノDDS』『患者まで届いている再生医療誘導治療』など。

田畑先生の研究室HP http://www2.infront.kyoto-u.ac.jp/te02/index-j.php3

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