中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

細胞をつかまえ、細胞を切ったり硬さを測るナノロボットをつくる

マイクロ光造形法による3次元マイクロマシンの論文が発表され、評判を呼ぶと、海外の研究者が九州工業大学の生田先生の研究室に見学に来る機会が増えた。しかし、研究室に入ってきても、それらしい装置はどこにも見当たらない。
「いったい、あなたがつくった装置はどこにあるんだって聞くわけ。そりゃ、わかるわけない。ぼくらがつくったマイクロ光造形法の装置は、振動吸収台がわりに『少年マガジン』を4冊くらい重ねた上に鉄板を乗せ、その上に顕微鏡を設置しただけのものなんだから(笑)。まるで、素人の手作り実験。クリーンルームなんてない。それで見学しに来た人はみんな『えっ』って驚く。人を驚かせるのは大好きだから嬉しかったね。そして、『研究費もないのに、よくやっている』と著明な研究所の所長クラスがほめてくれましたよ。
ぼくも学生たちも、そういってもらうと元気が出たもんです。若い研究者にぼくは言いたいんだな、お金がないと言ってすぐ研究をあきらめる人が多いけれど、研究はお金じゃないよ、情熱と工夫、そして人間力だってね」

3次元の立体造形が可能になったことで、生田先生のマイクロマシン研究は大きく前進することになった。
「医療を進歩させるためには、ぼくたちのからだをつくっている細胞の研究が不可欠ですよね。細胞の機能を調べるためには、細胞を押したり、切ったり、いじったりしなければならない。でも研究の対象になる細胞の大きさはだいたい5ミクロン。これまでは、ガラス管を溶かして引っ張って細くして細胞を動かしたりしていたのだけれど、これでもまだ大きすぎる。そこで、マイクロ光造形法をさらに進化させてナノロボットを作れないかと考えたんです」

マイクロ光造形法を使えば、外形約10マイクロメートルのマイクロ歯車や、全長約9マイクロメートルのナノピンセットをはじめ、細胞をつかむためのナノロボットハンドや、細胞を刺したり引っかけたりするためのナノサイズの針(ナノニードル)が製作可能だ。つくるだけではダメで、それらのマイクロマシンを体内で動かさなくてはならない。
非接触で遠隔操作を行うために生田先生が利用したのが、「光トラッピング」という手法だ。マイクロマシンに赤外線レーザー光の焦点を結び動かすと、光の屈折に伴って発生する力の働きで、マシンはあたかもレーザー光に“トラップ”されたかのように焦点とともに動く。これで、ナノロボットなどを動かそうというわけだ。

「最初は力不足でものを動かせなかったけれど、ロボットの形やレーザーを工夫することで、自在に動かすことができるようになりました。こうした道具ができると、これまでわからなかった細胞についてのいろいろなデータを集めることができるようになる。がん細胞が普通の細胞よりどれだけ硬いかをナノロボットハンドでつかんで調べるのはもちろんのこと、細胞をナノニードルで切って開いて、細胞の中に入っているミトコンドリアの長さを測ったりすることもできるようになるんです」
それにしても、わずか5マイクロメートルの細胞をつかまえちゃう極小ロボットがすでに開発されているなんて驚きだ。

マイクロ光造形法でつくったロボット用パーツや極小マイクロアート
マイクロタービン

マイクロタービン
外形は約10マイクロメートル。実際に水中で回転させることができる。

マイクロ歯車

マイクロ歯車
歯のサイズは1マイクロメートル。かみあって動く

アゲハ蝶、優勝カップ、カマキリ、甲虫

学生たちがつくったマイクロアート。アゲハ蝶、優勝カップ、カマキリ、甲虫など自由自在

マイクロサイズの精巧な3次元造形にオドロキ!

マイクロロボット
約5マイクロメートルのマイクロロボット。

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