中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

指先に乗る化学工場で自分だけの薬をつくる

生田先生はいま、こうしたマイクロマシンを機能別にチップにした「化学IC」(ICは集積回路の意味)を提案し、開発してきた。
「化学ICは、指先に乗るほどの小さなチップの中に、ナノサイズのポンプやセンサー、電子制御回路、切り替えチップなど、さまざまな機能を組み込んだもので、いわば、小さな化学工場をつくろうというものです。化学反応を小さなチップの中で起こすことができると場所は取らないし、いろいろな化学反応を安く速くできるんですよ」

無細胞蛋白合成用化学IC

無細胞蛋白合成用化学IC

化学ICファミリー

化学ICファミリー


4種類の試作チップ群

4種類の試作チップ群

たとえば、ホタルが発光するのは、ルシフェラーゼという発光酵素タンパク質があるからだが、化学ICでこのタンパク質を合成することもできるのだという。タンパク質はアミノ酸の組み合わせでできているが、その組み合わせを決める、つまり設計図をつくるのは遺伝子(DNA)である。そこで、ひとつの溶液の中にルシフェラーゼの設計図であるDNA、アミノ酸、そしてエネルギー分子を入れ、他の溶液に大腸菌などから採取した細胞抽出液を入れ、これら2つの溶液を小さな化学工場の中で混ぜ合わせると、人工的にホタルを光らせるタンパク質ができてしまうのだ。生田先生の行った実験では、合計8時間以上にわたってルシフェラーゼを合成することに成功したという。

「いま薬は、多数の患者さんに対応できる大量生産型のものが使われていますが、理想は、個人個人の遺伝子情報に基づいて、その人だけのための、副作用がなく治療効果の高い薬を使うこと。こうした医療のことをテーラーメイド医療と呼びますが、ホタルの発光タンパク質を合成したように、化学ICを使ってタンパク質を合成すれば、テーラーメイド治療薬も可能となるでしょう。いま秋葉原の電気街で電子部品やICチップを買ってきて、自分でパソコンやラジオなどを組み立てているように、ゆくゆくは、化学ICチップを買ってきて、組み合わせて自分専用の薬などをつくれる時代が来るかもしれません」

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