中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

カロリー制限をすると長生きに?

ではなぜ、これらの線虫は普通の線虫よりも長生きなのだろうか。

白澤先生によると、「ダフ2」の傷ついた遺伝子の本来の働きは、進化の過程で飢えや温度変化など、より厳しい環境に遭遇したとき、冬眠モードに入り、厳しい環境がゆるんだときに、冬眠モードから通常モードに切り替える「ON /OFF」の役割だと考えられるという。冬眠モードでは、活発な生命活動を控えて、しぶとく長く生きようとする。つまり長寿モードになる。この遺伝子に傷がついたため、「ダフ2」は冬眠モードから通常モードへの切り替えができなくなり、長生きできるようになったわけだ。

これに対して、「クロック1」は、エネルギーを生みだすミトコンドリアの働きが抑制され、生体リズムが遅くなった結果、長生きできていると考えられる。

この「クロック1」に似ているのが「イート」と名づけられた長寿命変異体の線虫だ。この線虫は、喉から餌を飲み込む作業がゆっくりしていて、取り入れる餌の量が制限され、ダイエット効果で長生きしているのではないかということだ。

いったいなぜ、餓えやダイエットが長寿命に関係してくるのだろう。

「米国ウィスコンシン大学のリチャード・ワインドラッグ教授は、カロリー制限したアカゲザルと、カロリー制限なしのアカゲザルの老化の進行を研究した結果、カロリー制限をしたアカゲザルは、老化の速度が遅く寿命も長いことを発見しました。
これは、ミトコンドリアの働きに関係しています。ミトコンドリアは、ブドウ糖などからエネルギーをつくり出す働きをしますが、そのとき核の中のDNAを傷つける活性酸素という物質をつくり出してしまうのです。DNAを傷つけると細胞ががん化しますが、がん細胞になるのを防ぐために、細胞は自分で死んでしまい、これを細胞の自死(アポトーシス)といいます。そこで、死んだ細胞を細胞分裂によって補おうとするのですが、歳をとるとすべての細胞を補うことができなくなり老化が進んでしまいます」

活性酸素は、細胞のがん化に関係するだけでなく、血管を劣化させ動脈硬化を引き起こす。心臓病や脳卒中の最大の原因になると考えられている物質なのだ。

イラスト図

「カロリー制限をすると、より少ないブドウ糖からエネルギーをつくり出せるようミトコンドリアの効率を上げる機能が働くために活性酸素ができにくくなり、これらの病気にかかりにくくなって長生きできるようになるというわけです」

イラスト図
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