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第13回 長寿遺伝子の秘密を探る――人間の寿命はどこまで延びる?~順天堂大学大学院 加齢制御医学講座 白澤卓二教授を訪ねて

中国の秦の始皇帝は不老不死の妙薬を求めたが、その願いかなわず49歳で死んだ。二千年の昔から人はアンチエイジングや長寿に大きな関心があったのだ。生命科学や再生医学か急速に進展している現在、老いは果たして制御できるのだろうか? ヒトの寿命はどこまで延びるのだろう? この分野に詳しい順天堂大学大学院の白澤先生に、老いや寿命についての最前線の研究事情をうかがった。

ヒトの寿命の限界は120歳?

厚生労働省の調査によると、2010年の日本人の平均寿命は男性が79.64歳、女性が86.39歳。世界で比較すると、男性が4位、女性は堂々の1位だ。しかも、男女とも平均寿命はほぼ右肩上がりで延びていて、100歳以上の老人も増えている。ではこの先も、ヒトの平均寿命はどんどん延びていくのだろうか?

とはいっても、生命である限り死は避けられない。平均寿命は栄養状態や衛生状態が改善され、戦争などが起こらないことによって延びてきたが、生物としての寿命の限界はあるはずだ。いったいヒトは生物学的に何歳まで生きられるのだろうか。

「動物の寿命を考える場合、一定の条件のもとで飼育できる動物なら、本来その動物が持っている寿命を実験などで知ることができます。たとえば、アカゲザルの最長寿命は約30年、マウスが約3年、細長いひも状の形をした線形動物の一種の線虫はわずか21日です。これに対してヒトの寿命は実験で知ることができません。ギネスブックが世界一の長寿と認定したのは、122歳で亡くなったフランス人のカルマンさんという女性で、こういった記録を参考に、ヒトの寿命の限界はおおよそ120歳と考えられています」(白澤先生)

脊髄動物の寿命

理科年表(平成23年)より作成

では、ヒトが老いるというのはどういうことなのだろう。

「老化を知るための重要な指標としては、筋肉と骨密度が挙げられます。このグラフを見てください。筋肉の量は年齢とともに減ってきます。とくに40歳あたりから急激に減っていくのがわかりますね。骨密度は男女差が激しく、男性の場合は筋肉の減少と同じようなカーブを描いて少なくなり、女性の場合は40代半ばから急激に減少します。また、脳や心臓、腎臓、肝臓など人体で重要な臓器も、老化によって委縮していきます。つまり、ごく簡単に言うと、老化とは『細胞が歳をとるとともに減ったり、衰えたりすること』なのです」

加齢による変化

このほか、からだ中に栄養を運ぶ重要な役割をする血管も、年齢を重ねるに従って老廃物がたまり、壁が厚くなって血液が流れにくくなり、動脈硬化などを起こしやすくなる。さらに老化の進行にともない、DNAが傷ついたり、DNAの複製の際にエラーが生じたりしてもそれを修復できなくなる。免疫機能が低下し、がんをはじめさまざまな病気にかかりやすくなって、死を迎えるわけだ。

このように、生物の寿命は一つの要因だけから決定されているわけではなく、遺伝的な因子や、環境的な要因など、さまざまな条件が組み合わさって決定されているといえるだろう。

白澤卓二教授
白澤卓二(しらさわ・たくじ)順天堂大学大学院 医学研究科 加齢制御医学講座 教授

1958年神奈川県に生まれる。82年千葉大学医学部卒業、同大学呼吸器内科入局。90年同大学院医学研究科修了。東京都老人総合研究所分子病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子遺伝学室長、分子老化研究グループリーダーを経て、現在順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学、アルツハイマー病の分子生物学など。著書に「老いない、病気にならない方法」「ずっと若く生きる食べ方」「100歳までボケないレシピ」など多数。

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