中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

“脳内の親時計が朝の光でリセット、生体リズムを刻む

こうした「生体リズム」はどのようにして生まれるのだろうか。大戸先生は、この生体リズムをつくるのは脳の中にあるという。
「生体リズムを司っているのは、脳の中にある『視交叉上核(SCN)』という場所です。ちょうど左右の視神経が交叉するところの上部にあり、およそ1万6000もの神経細胞群が集まり、からだの中の時計(体内時計)を動かす振動体が備わっています。これが生体リズムをつくりだす大もとで、いわばからだ全体のリズムを刻むオーケストラの指揮者、親時計の役割を担っているのです。
この親時計によって生まれた生体リズムは、ステロイドなどの神経伝達物質によって、手や足など身体の末梢部に伝えられていきます。末梢部にはいってみれば親時計に対応するローカル時計が備わっていて、親時計と相まって生体のリズムをつくり出しています」

もっとも、人間の本来の1日の生体リズムは、およそ25時間だという。洞窟などの光がまったく入らない場所で実験したところ、24時間よりも長い時間で1日のリズムが刻まれていることが分かった。本来は1時間も長い生体のリズムを、24時間のリズムにするのは、朝の「光」なのだ。 「朝の光を脳の視交叉上核が受け取ると、親時計がリセットされ、1日のリズムを刻み始めるのです。それをからだの隅々のローカル時計に送り届け、末梢部では血圧や体温をあげたり、ホルモンの分泌を調節したりして、1日の活動の準備をするというわけです」

では、この体内時計を動かし、生体リズムをつくりだしているさらにその大もとは何だろうか。1970年代になって、分子生物学者などが、その生体リズムをつくっているのは「時計遺伝子」であるとつきとめた。最初は植物や昆虫で発見され、哺乳類では1997年にマウスの視交叉上核の細胞で「Per1(パー1)」「Per2」「Per3」「Clock(クロック)」という時計遺伝子が相次いで発見された。さらにその後、「Cry(クライ)」、「Bmal1(ビーマル1)」などという時計遺伝子が見つかった。そして、視交叉上核の細胞にある時計遺伝子は、からだ中の他の細胞にも存在していることなどが明らかにされていった。
「時計遺伝子の発見は、時間治療にも大きな影響を与える出来事でした。世界的に権威のある科学誌などに研究成果が次々に掲載されるに従って、医師の注目も、時計遺伝子とともに時間治療にも向けられたからです」

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