中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

リズム診断、リズム障害の回避、リズム操作に注目する

さて、「気管支喘息は、夜間から早朝にかけて起きやすい」と述べたが、実は、これには個人差があると、大戸先生は注意をうながす。
「気管支喘息の患者さんが100人いたとすると、70人から80人は夜間から早朝にかけて起きやすいことは同じです。けれども、あとの20人から30人は、昼間に喘息が起きたりする。つまり気管支喘息のリズムにも個人差があるということです」

ほとんどの人は昼に活動のエネルギーが上昇する昼型人間だが、中には夜になると血圧、脈拍、体温などが上昇する夜型人間もいる。たとえば、コンビニなどで夜間勤務を続けていくうちに、生体リズムが他の人と変わってしまった場合などが考えられるのだという。
生体リズムに個人差があるとすると、すべての気管支喘息の患者さんに同じ時間で薬を投与することができなくなる。中には夜間から早朝にかけてではなく、昼間から夕方にかけて呼吸器官の活動が弱まる患者さんもいるからだ。
「そこで時間治療の効果を十分に発揮させるためにも、個人の生体リズムを測定する“リズム診断”が必要となってきます。幸いなことに、いまは、24時間血圧を測れる“24時間血圧計”や、呼吸機能がどれだけ機能しているかを測る“ピークフローメータ―”などで、個人の生体リズムを計測できるようになってきました」
リズム診断を重ねることによって、個人レベルでの最適な薬の投与時間を設定することができるようになるわけだ。

こうした生体リズム、日周リズムを変化させてしまうものに薬と食事がある。
「がんや肝炎の治療薬として使われるインターフェロンを毎朝投与すると生体リズムに障害を与えてしまうことが分かってきました。薬だけでなく食事や栄養液でもやはりリズム障害が起こります。通常の食事時間に合わせて栄養液を与えても生体リズムは狂わないけれども、栄養液を一日中あるいは夜間に投与すると、日周リズムが変調をきたしてしまうのです。このようなリズム障害は、免疫のもとになる白血球のリズムを変調させ、免疫機能を低下させてしまうために、がん細胞の増殖を盛んにさせたりします。時間治療を実施する上では、この『リズム障害の回避』が重要な課題となります」

しかし、薬や食事によって生体リズムを変化させることができるなら、逆にこれを上手に活用すれば、『リズム操作』によるメリットも生まれる。
「たとえば、1~2週間の間、食事時間を変えることで、生体リズムを変えることができます。時差のある国に旅行した時、現地時間にあわせて食事をとることで時差ぼけを早く調整することもできるわけです。それ以外に、時間治療にとってリズム操作は重要な意味を持っています。たとえば、ある個人のリズム診断をしたところ、夜中に治療薬を投与することが時間医療からみて最もふさわしいとしても、摂食条件を操作することによってホルモンのリズムを変えて、最適な投薬時間を夜中から昼間に変えてしまうことも可能だと考えられます」

ただ、食事によって変えられるのは、視交叉上核にある親時計をのぞいた脳や末梢組織の時計だという。親時計のリズムを変えられるのは、光と薬物なのだそうだ。
最近では親時計のリズムを光によってコントロールし、睡眠障害やうつ病などの治療に活かす取り組みも行われるようになった。光によって体内時計がリセットされ、眠気を司るメラトニンの分泌が抑制される性質を利用して、メラトニンの分泌タイミングを光でコントロールし、睡眠障害の治療をするものである。

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