中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

興味があることにチャレンジしてほしい!

大戸先生は時間治療の研究に至るまで、どのようなプロセスを歩んできたのだろう。
「1985年頃、私は動物を対象にして、いろいろな薬を実験的に投与して1日のうちどんな時間に投与したら効果が高まるか、副作用がないかなどを研究していました。薬学にはどのような投与間隔で、どれだけの量を投与するかなどを決定する、TDM(Therapeutic Drug Monitoring薬物投与計画法)というものがあります。その頃のTDMは、患者さんの薬に対する反応が時間によって変動しないという前提に立っていました。しかし、私は薬を投与するにあたって、投与する時間によって薬効も高まり、副作用も軽減されることがあるのではないかと研究を続けていきました。それが、私の出発点です」

もっとも最初の頃、大戸先生の研究は学会に発表しても注目を集めることはなかったという。1990年代に入って、時間を導入した薬物投与計画を、がんの領域に応用した研究を始めたところ、注目度が高くなったという。
「当時、分子生物学が薬学の中でも注目されるようになりました。遺伝子分析が盛んになり、遺伝子が異なる個体間での薬の反応の差を研究する個体間変動に多くの薬学研究者が目を向け、薬理遺伝学の研究が盛んになったのですが、私は、むしろ、薬が個体内でどんな変動を表すのか、個体内変動に注目して研究を進めていきました」
その後、時間治療における「リズム診断」「リズム障害の回避」「リズム操作」「DDS」と、大きなテーマを掲げて研究に取り組んできた。

そうした経験を踏まえて、大戸先生は若い人にこんなメッセージを送ってくれた。
「まず、興味があることをやりなさい、興味があることを追求しなさいといいたいですね。私の場合も、まだ医療薬学や時間治療が学問として認められていなかったころに、医療に貢献する薬学の研究を進めたいという一心で取り組んでいました。その結果、いまでは時間薬物治療が学問として認められるところまできました。とはいっても、時間薬物治療はまだ歴史の浅い学問ですから未知の領域が広く横たわっています。若い人には『研究者は競争が大変だから』などといって、やる前から尻込みしてしまう人がいます。けれども、もっとシンプルに考えて、興味があることに粘り強くチャレンジしてください」

(2012年7月24日取材)

PAGE TOPへ
ALUSES mail