中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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第16回 体内リズムに合わせて薬を投与する「時間治療」のいま ~九州大学大学院薬学研究院 大戸茂弘教授を訪ねて

「人のからだには生体リズムがあり、そのリズムに合わせてもっとも効果が高い時間に薬を投与して、患者さんを治療する」。こうした医療を「時間治療」というが、「時計遺伝子」の発見とともに、いま、新しい治療方法として注目を集めている。「時間治療」の研究に力を注いできた九州大学の大戸茂弘教授にお聞きした。

生体リズムを利用した時間治療

私たちのからだは、夜が明けて朝が来ると、心拍数や血圧、体温などが高まって、「さあ、これから働いたり、勉強するぞ」などと、日々の活動のための準備を始める。逆に夕方から夜にかけては、体温や血圧が下がり始めて、睡眠に誘う準備が始まる。人はこのように24時間をひとつのサイクルとして、生理的なリズムを繰り返して生きている。この繰り返しを「生体リズム」(1日の変動リズムを強調する場合「日周リズム」「概日リズム」)と呼んでいる。

「こうした生体リズムを利用して薬を投与し、薬の効果をより高め、薬の副作用なども軽減させる」ことを目的にした研究がいま注目を集めている。それが大戸先生が早くから研究してきた「時間治療」である。

「以前は、私たちのからだの働き方は24時間一定で、恒常性(ホメオスタシス)を保つようコントロールされていることを前提に、からだの働きが一定ならいつ注射をしても、薬を飲ませても、効果は同じと考えられていたのです。けれども、私たちのからだには生体リズムがあり、たとえば呼吸器官の働きにリズムがあるとしたら、薬の投与の仕方も変わってくるはずです。
気管支喘息という病気は、夜間から早朝にかけて起きやすいとされています。これは気管支喘息患者の呼吸機能が午前4時頃に最低となることに関係があります。いちばん呼吸機能が落ちてくる時間帯に、喘息の発作が患者さんを襲うのです。そこで、夜間から明け方にかけて薬を投与すれば、漫然と薬を投与するよりも効果は上がります」

気管支喘息ばかりではない。心筋梗塞が発症しやすく死亡率が高いのは朝の8時から12時くらいまで、また、脳出血やくも膜下出血などの脳血管疾患では、朝7時頃に多く発生することも分かってきた。こうした病気のリズムに投薬時間を関係づけることができれば、同じ種類、同じ量の薬であっても、より効果的な薬の使い方ができるというわけだ。いまでは時間治療のターゲットはがんにも向けられていて、日々研究が続けられているという。

生体機能の日周リズム

生体機能の日周リズム

大戸 茂弘 先生
大戸 茂弘(おおど・しげひろ) 九州大学 薬学研究院・副研究院長、薬剤学教授

1988年愛媛大学大学院医学研究科博士課程修了。89年米国南カリフォルニア大学薬剤学研究所に留学。90年愛媛大学医学部薬理学助手。93年九州大学大学院薬学研究科薬物動態学助手、2001年助教授。05年教授。現在、薬学研究院・副研究院長、薬剤学教授。専門は体内時計の分子機構を基盤にした時間薬剤学、創薬・育薬における薬効評価システムの研究。

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