中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

DDSを使ったがん治療も可能に

「薬剤を必要な時に、必要な量を、必要な部位に到達させる技術」があれば、人の生体リズムを変えることなく、もっとも薬の効果の高い時間帯に目的の部位に薬を届けることが可能になる。DDS(Drug Delivery System)は、薬剤を高分子膜などで包み、時間遅れで吸収させて目的の時間に患部に到達させ、そこで薬を放出する仕組みで、時間治療を支える重要な技術である。
たとえば、狭心症や早朝に血圧上昇する症状に対しては、DDSを使って就寝前に薬剤を投与し、朝早くこれらの症状が出る時間に薬の効き目が最高になるようにすることも可能で、実際にすでにDDSによる時間治療が行われているという。

「時間治療は、いま、がん治療への応用も研究されています。がん細胞が活発に増殖するときに高い値を示す因子があります。この因子は、がん細胞の中だけでなく、末梢の血液細胞の中においても同じような日周リズムを示すことが私たちの基礎研究で明らかになってきました。
そこで、血液サンプルからその活動時間を把握して、がん細胞が活発に働く時間帯に合わせて抗がん剤を投与すれば、薬効を高められるのです。
がん細胞の表面にあるタンパク質の受容体は、体内時計によって制御されていて、一定のリズムを持っています。このタンパク質の発現が高いときを狙って、抗がん剤を与えるようにすると、抗がん剤はがん細胞の中に取り込まれて、その中ではじけてがん細胞のDNAにダメージを与えることができるのです」
時間治療のさまざまな方法を駆使することによって、がん治療の明日が見えてくる可能性があるといえるだろう。

がん細胞の増殖にかかわる鉄を取り込む「トランスフェリン受容体」というタンパク質は夜の21時(マウスは夜行性で活動期は暗期)に最も多くがん細胞の表面に現れる。そこで、トランスフェリン受容体の増減のリズムを指標に、抗がん剤を表面にトランスフェリンをつけた脂質の膜(リポソーム)で包み21時にマウスに投与したところ、朝9時に投与したマウスよりがんの大きさが3割程度小さくなったという。

PAGE TOPへ
ALUSES mail