中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

シリコーンを使って靴の中敷きを開発、ヒット製品に

中村ブレイスに転機が訪れたのは、創業してから10年経ったころ、社員の一人がプラスチックの展示会でシリコーン樹脂でできた灰皿を記念品としてもらったことだった。
「それを見たとき、シリコーン素材を使って扁平足の人が骨折した場合などの矯正や、膝が悪い人の歩行を助けるインソール(靴の中敷き)をつくったらどうかとひらめいたのです。シリコーンは眼鏡のフレームの滑り止めや医療用品のカテーテルなどにも使われる高級品ですが、当時シリコーンは“樹脂のダイヤモンド”といわれるくらいの貴重品で、1㎘缶で1万円くらいしましたから、靴の中敷きに使うことなど普通は考えられません。でも、シリコーンは肌にやさしく通気性が良いこと、そして長持ちがすることなどから、シリコーン製のインソールをどうしても開発したいと思ったのです」

そのころ15人ほどになっていた社員と一緒に、シリコーンのインソール開発に挑戦したが、いざ開発しようとすると問題が山積していた。シリコーン樹脂を石膏の型に流し込むと高温の樹脂が石膏を壊してしまう。試行錯誤の末、アルミを含んだプラスチックで型枠を固め、表面に熱に強い塗料を吹き付けることで解決することができた。このほか、型枠をきちんとつくっても同じ厚さのインソールをつくるのが難しい、気泡が入ってしまうなど、次から次へと難題が襲ってきた。
「シリコーン樹脂は一度固まると元に戻せないこともあり、かなりの開発費を使ったので、このまま完成できなかったら大変だと思いました。しかし、医療に使うものだから何としても良いものをつくりたい一心でいくつもの問題をクリアして、とりあえず1日に数十個くらいのインソールを生産できる体制をつくりあげました。シリコーンは小さな穴が開いているので通気性には優れていますが、さらにいくつもの孔をあけて風通しを良くしたため、臭いがつかない、むれないなど、従来の製品とは比べ物にならないほど優れた製品が出来上がりました」

このインソールは、アメリカ、イギリス、ドイツ、ベルギーなど日本を含めて世界9カ国で特許を取得することに成功した。しかし、特許を取得したからといって、実際に販売するとなると簡単に売れるものではなかった。
医療用のインソールではなく、一般の靴の中敷きとして販売したらどうかという声もあったが、中村社長はこのインソールは患者さんを足元から支えるためのものと考え、あくまで医療用として販売することにした。しかし、全国に支店などを持っていないため全国の病院に直販することは難しい。そこで国内の義肢装具を製造販売している同業者に委託販売することに決めた。医療用として販売するならきめ細かなメンテナンスが必要であり、同業者に扱ってもらうほうが行き届いたケアができるし、より多くの患者さんに使ってもらえると考えたのだ。

こうして、シリコーン製の医療用インソールは、これまで150万個も売り上げ、中村ブレイスの経営の基礎を築く製品となっている。

中村ブレイスのヒット製品となったシリコーンゴム製のインソール

中村ブレイスのヒット製品となったシリコーンゴム製のインソール

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