中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

世界に目を向けて、患者さんのために考え抜く

こうした義肢装具の世界に将来進んでいきたいと考えている若い人に対して、中村社長は、「若いときこそ、世界に出ていろいろな文化や考え方などを身につけることが大切だと思います」とエールを送る。
「私も思い切って23歳のときに渡米しましたが、そのときの体験が非常に大きかったと思います。アメリカでは、自らの道を自ら切り開いていく精神が強く、自分もそうありたいと思いましたね」

義肢装具士になりたいと思うなら、医学や医療の基本的な知識を身につけることが第一だという。中村社長が義肢装具の道を志したころと違い、いまや4年制大学や専門学校など義肢装具を学べる学校は全国に10校以上ある。そういう学校で義肢装具の技術を身につけることが必要だが、その後のさらなる研鑚が欠かせない。

最近の若い人の中には、義肢装具の技術で世界に貢献したいという志を持つ人が多い、と中村社長は言う。ただしそのときに念頭に置きたいのが、パラリンピックで見るような高機能で高品質の義肢を使える人は、先進国のほんの一握りだということ。
あるとき、中村ブレイスには、フィリピンのNGO(非政府組織)から「先天性の四肢障害で両足のない少年のために義足をつくってほしい」という依頼があった。日本で培われた義肢装具の製造技術を提供することはたやすい。しかし、成長期の少年の場合、毎年のように成長にあわせて義足を取り替えなければならない。月1万円未満の途上国の収入でも、子どもの義足費用をまかなえる工夫が必要だ。そこで、現地で手に入る竹を使い、現地の人たちの技術でつくれる“竹の義足”を考案し、技術提供した。
「先端技術だけでは役に立たないのです。もちろん義肢装具の基本的な技術が第一ですが、それと同時に重要なのが、常に患者さんの視点で考える力です。どうしたら義肢装具によって、よりよい生活ができるかをそれぞれの状況にあわせてあらゆる角度から考え、創意工夫していくこと。モノづくりの原点は『考える』ことなのです」
中村ブレイスの社是は“THINK”。職場のあちこちにこの言葉が掲げられている。

中村社長はこんなふうに締めくくってくれた。
「私たちがつくっているのは、単なる『モノ』ではありません。その方の人生にとって非常に大切なものをつくっていることに感謝して、患者さんに満足いただけるものをつくっていかなくてはなりません。人間のからだそのものを再現することはできませんが、一歩でも近づくために、限りないほどの課題があり、患者さんの立場に立って徹底的に考え努力することで、常にさらに上をめざしていかなくてはなりません。やりがいのある仕事ですよ」

フィリピンの竹を使って地元の竹職人がつくった義足

フィリピンの竹を使って地元の竹職人がつくった義足

竹細工の義足をつけて歩行練習をするフィリピンの少年

竹細工の義足をつけて歩行練習をするフィリピンの少年

社是である「THINK」の文字が社内のあちこちに

社是である「THINK」の文字が社内のあちこちに

(2013年1月11日取材)

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