中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

移植医療への応用も期待できる

こうしてできた細胞ファイバーは、織る、巻く、束ねるなど自由自在に取り扱うことができる。
「たとえば、織物を織るように布状にすることができるんです。細胞ファイバーを織る『織機』を試作し、細胞ファイバーを縦、横、交互に通して、Tシャツを織ってみました(笑)。この技術を応用すれば、人工組織に血管や神経を織り込んでいけるわけですね。布のような構造だけではありません。束ねたり、ぐるぐる巻き取ったりすることによって、いろいろな立体構造をつくるプラットフォームになると考えています」

細胞ファイバー
細胞ファイバー
細胞ファイバーを織ってつくった布様の細胞組織とTシャツ

細胞ファイバーを織ってつくった布様の細胞組織とTシャツ

自動織機で、細胞ファイバーが
織り上げられていくところを動画で見てみよう!

チューブ組織をつくるには

チューブ組織をつくるには
細胞ファイバーを巻き取ることによってつくったチューブ構造の細胞組織

細胞ファイバーを巻き取ることによってつくったチューブ構造の細胞組織

もうひとつ細胞ファイバーの応用として期待されているのが移植医療の分野だ。いま血栓の治療やさまざまな先端医療の分野で、細長い管状のカテーテルが使われているが、髪の毛ほどの細さの細胞ファイバーはカテーテルや内視鏡などファーバー状の低侵襲医療器具との相性が抜群なのだ。からだへのダメージをできるだけ与えないようにして出し入れができるうえ、(通常ばらばらになった細胞を何個とカウントするのはむずかしいが)ひもなら何㎝と一定の長さで、細胞の量を測りやすい。

竹内先生のグループが今回ターゲットにしたのが糖尿病治療。糖尿病はすい臓の中の膵島(ランゲルハンス島)でつくられるインスリンが不足して、血液中の糖が必要以上に増えて起きる病気だ。
「ラットの膵島細胞から分離してつくった膵島細胞ファイバーを糖尿病マウスにカテーテルを使って移植しました。すると移植を受けたマウスの血糖値は正常値範囲にまで下がり、細胞ファイバーを取り除くと、再びマウスの血糖値が上昇することが確認できました。将来は、幹細胞やiPS細胞などを目的の細胞に分化するよう誘導して、細胞ファイバーの形で培養して、膵島移植や神経損傷などさまざまな医療に展開していきたいですね」

(A)マイクロカテーテルを使ってマウス腎臓皮膜下に膵島細胞ファイバーを移植している様子(B)20cmの膵島細胞ファイバーが移植された様子。図中の矢印は、移植された膵島細胞ファイバーを示す

膵島細胞ファイバーの移植
(A)マイクロカテーテルを使ってマウス腎臓皮膜下に膵島細胞ファイバーを移植している様子
(B)20cmの膵島細胞ファイバーが移植された様子。図中の矢印は、移植された膵島細胞ファイバーを示す

マイクロカテーテルでの
細胞ファイバーの移植の様子を動画でチェック!

膵島細胞ファイバーの移植による糖尿病マウスの血糖値の推移

膵島細胞ファイバーの移植による糖尿病マウスの血糖値の推移

膵島細胞ファイバーを移植後、マウスの血糖値が急速に下がり、正常値領域に落ち着いていることが分かる(図の黒ドット)。移植15日後に移植したファイバーを除去すると、再び血糖値の上昇が確認された。図の白ドットは対照例。細胞ファイバーと同じ細胞数の膵島細胞を懸濁液のままマウスに移植しても、血糖値は正常にならなかった

PAGE TOPへ