中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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第19回 点・線・面の細胞ブロックを活用し、三次元構造の組織をつくる~東京大学生産技術研究所・竹内昌治先生を訪ねて~

iPS細胞が登場して、ガゼン熱い期待が寄せられているのが「再生医療」だ。膵臓や肝臓などの臓器や組織を人工的につくりだし、病気や事故などで機能を失った部位に移植して治療することができれば、患者さんにとって大きな福音となる。しかし本格的な再生医療の実現にはまだまだ課題がある。その一つが、複数の細胞からなるセンチメートルオーダーの三次元構造の組織をつくりだすこと。東京大学生産技術研究所の竹内先生は、この難題に機械工学の発想で取り組んでいる。なんと、点と線、面の細胞ブロックを組み合わせて臓器をつくろうというのだ。いったいどんな研究なんだろう?

細胞を歯車のような規格化されたパーツに加工するには

「生命科学DOKIDOKI研究室」では、これまでも再生医療を実現するための臓器づくりへの挑戦についてたびたび取り上げてきた。培養したままの状態で取り出した「細胞シート」を何枚も積み重ねることで厚みをもった組織をつくる研究をしている岡野光夫先生、インクジェット式のプリンターのヘッド部分に細胞を入れ、印刷する要領で臓器をつくろうとチャレンジしている中村真人先生はその一例だ。
今回お話をおうかがいした竹内先生は、機械工学の手法で生命科学にアプローチし、立体的な組織や臓器づくりをめざしている。

東京・駒場にある研究室を訪ねると、開口一番、先生はこんなふうに切り出した。
「自動車だって、携帯電話だってロボットだって、世の中の人工物はすべてネジやバネ、歯車、軸やプレートといった『点』や『線』、『面』などのパーツの組み合わせでできています。レゴブロックを思い浮かべてみてください。1個の点のようなブロック、細長い線のブロック、面のブロックなどの基本的なブロックを組み合わせて、建物や都市やいろいろな造形をつくり出せますね。それと同じように細胞も、規格化された点や線、面のブロックとして取り扱えるように加工することで、厚みをもった三次元構造がつくれるのではないかと考えたわけです」

竹内先生がまず取り組んだのは、「点」の集合で立体をつくること。それが2009年1月に発表した「細胞ビーズ」だ。

ヒト型

「細胞は種類によって形や大きさが違います。でも一定の大きさのビーズにすれば、規格品として扱えるでしょう? そこでコラーゲンのゲルビーズを細胞で囲んで直径100μmの『細胞ビーズ』をつくりました。ゲルの足場があることで、活性を維持することができるのです。この細胞ビーズ10万個を身長5mm厚さ1.25mmのヒト型の鋳型に入れて1日培養して取り出したのがこれです」

まるでプリンをつくるみたいに、ヒト型の構造ができたのだ!1日経って鋳型から取り出しても、細胞同士は生きたままくっついていたという。通常はミリメートル以上の大きさの場合、内部まで養分が行き届かず細胞は死んでしまうが、ビーズ同士のすき間から養分が内部に浸透したものと考えられるという。

2010年1月には、人差し指をもとにアガロース(寒天の主成分で、ゲル化しやすい中性の多糖類)で鋳型をつくり、マウスの皮膚細胞を培養し、なんと約3.5cmもの長さの指をつくることに成功した。

指そっくりの立体構造
細胞ビーズで3cmぐらいの指そっくりの立体構造がつくれたんだって!
竹内昌治
竹内 昌治(たけうち・しょうじ)東京大学生産技術研究所 准教授

1995年東京大学工学部機械情報工学科卒業。97年同大学大学院工学系研究科機械情報工学専攻修士課程修了。2000年同博士課程修了。同年日本学術振興会特別研究員(PD)に。2001年東京大学生産技術研究所講師、03年同助教授(07年より准教授)。現在に至る。この間、04年ハーバード大学化学科客員研究員、08年より同研究所バイオナノ融合プロセス連携医研究センターセンター長、10年よりJST ERATO竹内バイオ融合プロジェクト研究総括、12年より京都大学客員教授などを兼務。専門はナノバイオテクノロジー、マイクロ流体デバイス、MEMS、ボトムアップ組織工学。

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