中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

将来は脳と脳が直接情報交換!?

いま、コミュニケーション、言語、運動、感覚などに関係する脳機能の解明が最先端の研究として注目を集めているが、神谷室長はどんなきっかけでこの分野の研究に取り組み始めたのだろうか。

高校を卒業すると東京大学の教養学部に入学。学部学生の頃は哲学や認知科学的な学問に興味を持っていたのだそうだ。
「脳と心の関係とか、物質の状態から心をどう捉えるかなどについて興味を持っていたのですが、当時はまだ、サイエンスとしてそうした問題に取り組むという雰囲気はなかったように思います。90年代になって数学とコンピュータを使って心の問題を解き明かそうとするニューロネットワークが流行りだしました。私はバイオロジーよりも情報処理と脳、心などに関心が高かったので、この分野がおもしろそうだと考えて大学院に進み、博士課程で認知行動学を本格的に学ぶことになりました」。

その後カリフォルニア工科大学に留学して、ニューロサイエンスとコンピューティングを組み合わせた研究を進めたのち、プリンストン大学でfMRIを使った脳イメージングの研究を始める。。
「従来の脳イメージングの解析方法は、一つ一つの画素の明るさの統計的な違いを調べる作業で、とてもやっていられないなあと(笑)。そんなこともあって、コンピュテーショナルな方法で脳情報を解析するデコーディングの方法を思いついたのです」
そしてATRで脳活動のデコーディングの分野で大きな成果を上げてきたことはこれまで紹介してきた通りだ。

今後の課題は何だろうか。
「私たちの研究で、脳活動を計測することで主観的な夢の画像の解読の可能性を初めて示すことができましたが、まだ、夢に現れる色や形などを解読できてはいませんし、ましてや、夢の中で感じる悲しいとか嬉しいといった感情は解読できていません。今後は、こうした研究を進めていきたいと思っています。また、夢だけでなく、自発的に生じる脳活動、たとえば幻覚などを解読することによって、精神疾患の診断に役立たせることも可能だと考えています」

神谷室長の個人的な興味としては、身体を使わないで行う脳によるコミュニケーション、「脳情報通信」だという。
「私たちがコミュニケーションをとるとき、携帯電話やスマホなどの情報機器が盛んに使われるようになっているけれど、携帯電話はのどの声帯を使って声を出さなければならないし、メールやインターネットを使う時にも指や手を使わなければなりません。つまり、コミュニケーションをとるときに、脳は必ず私たちの身体とつながっているということです。私たちの脳は、一次運動野という脳のほんの一部分を使って身体とつながっており、一次運動野を介さないとコミュニケーションがとれないのが現状なのです。
けれども、今後脳の詳細な活動地図が完成し、脳の情報がデコーディングによってどこの部位からでもとれるようになったら、一次運動野を介さずに、脳と脳が直接に情報交換できる可能性が生まれるかもしれません。実現できるかどうかはわかりませんが、そんなことを想像するのは本当に楽しいですよ(笑)」

そうしたことが本当に実現したら、SF小説の世界がもしかすると現実のものになるかもしれない。まだまだ遠い将来のことだろうが、私たちはその夢の入り口に立っている、そう思うと、確かに楽しい。

(2013年7月11日取材)

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