中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

ヒトの豊かな感情もマイクロRNAのおかげ!?

マイクロRNAについて、落谷先生から実に興味深い話をうかがうことができた。
「私たちヒトのゲノムの数は約2万とされていますが、この数はマウスのそれと比べて大きな違いがあるわけではありません。当初、多くの生命科学者は、霊長類たるヒトは、これだけ脳も発達しているのだし、マウスなどに比べてゲノムの数がもっと多いと推測していただけに、それほど多くはないとわかり大きなショックを受けたものです。
ところが、ヒトとマウスではマイクロRNAの種類に大きな違いがあることがわかってきました。ヒトのマイクロRNAが2700種類あるのに対して、マウスでは1900種類しかないのです。ゲノムの数はマウスからヒトへの進化の過程で増えてはいないのに、マイクロRNAの種類は圧倒的にヒトが多い。これは、マイクロRNAの数を増やすことによってゲノムの発現の微調整を行い、進化を遂げてきたからではないでしょうか。
そして興味深いことに、マウスになくてヒトにしかないマイクロRNAはヒトの脳に数多く見つかっているのです。ヒトの豊かな感情・情動を司るのはマイクロRNAではないかと予測されています」

これからさらに研究が進めば、動物の中ではヒトにしかない言語活動、認知、意思、行動など高次情報処理を生み出す力はマイクロRNAに関係していることがわかってくるのかもしれない。マイクロRNAの研究はまだ始まったばかりであり、腫瘍マーカーやがん治療に役立つ核酸医薬開発はもちろん、ほかの分野においても新しい発見が期待できそうだ。

最後に、落谷先生に中高校生へのメッセージをうかがった。
「若い人はサイエンスに興味を持ってほしい。われわれ人間というのは、まだまだ無知な生物なのです。一見、豊かに繁栄しているように思えますが、自然界から眺めると実にちっぽけな存在であり、知らないことだらけです。それを私たちは謙虚に受け止め、自然から学ぶ必要があると思います。そのためにも、サイエンスのリテラシーを身につける必要があるのではないでしょうか。そうすれば、一層、私たちの生活が豊かになり楽しくなるはずです」

(2014年10月21日取材)

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