中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

マウスを使った実験で歯が再生した!

こうしてできた歯のタネから実際にマウスの歯ができた様子は、冒頭見せてもらった通りだ。具体的にどんなステップを踏むのか、もう少し詳しく教えてもらおう。

「まず抜歯したマウスの、歯の抜けた部位に再生した歯のタネ(再生歯胚)を移植します。移植して37日目には、抜けた歯のところに再生歯が生えはじめ、49日目には再生歯がきちんと自分の歯と咬合ができるまでに成長します。歯の主要な要素であるエナメル質や象牙質なども正しく形成されていますし、歯と歯槽骨をつなぐ歯根膜もあるので、歯の完全な再生ということができます」

再生歯が成長するにしたがって、神経が接続し、自身の歯と同じように削ると痛いと感じる感覚も再現したという。歯に必要な、物を食べるための強度も備わっている。この研究成果は、2007年2月に、「ネイチャーメソッズ」に発表され、世界的な注目を集めることになった。

さらに2011年には、歯のタネから歯根膜と歯槽骨をそなえた再生歯ユニットをつくり、それを移植する手法や、2016年1月には、歯のタネを分割することにより、1つの歯胚から複数の歯胚を発生させる歯胚分割技術も開発した。

(左) 再生歯胚から作製した再生歯ユニット
(右) 再生歯ユニットを口腔内に移植して咬合させた様子(緑色に光る歯は移植した再生歯ユニット)

ところで、これまで紹介したマウスでの歯の再生は、胎児の発生プログラムの中にある細胞を使ったものだ。ヒトの歯に応用するにあたっては、胎児期の上皮性幹細胞と間葉性幹細胞とを採取することはできないため、iPS細胞などからこの2つの幹細胞を分化させ、それを器官原基法で組み立てて歯のタネをつくらなければならない。
「iPS細胞から2種類の幹細胞をつくる技術は、まだまだ開発途上です。iPS細胞からめざす幹細胞を誘導するために、どんな生理活性物質(サイトカイン)を使えばもっとも効率がいいのか、未分化な細胞をどう除外するかなど、解決していかなければならない課題が多いのが現状ですね」

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