中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

2020年をめざしてヒトの毛髪を再生したい

歯の再生はまだ時間がかかりそうだが、近い将来、ヒトへの応用が期待できるのが毛髪の再生だ。

毛は、皮膚に無数にある「毛包」と呼ばれる器官でつくられ、体表面から外に向けて伸びてくる。毛包はいわば毛をつくる工場だが、ヒトの場合、2年から6年に1回の周期で毛をつくる工場の部分をつくり直すことにより、成長と退行を繰り返し、新しい毛をつくり出す。毛のトラブルは、この毛包に何らかの問題があることで発生するという。
たとえば男性型脱毛症の場合、薄毛になるのは前頭部だが、これは前頭部の毛の毛乳頭に、遺伝的に毛をミニチュア化(うぶ毛)にしてしまう酵素が含まれているからだそうだ。後頭部の毛乳頭にはこの酵素がつくられないため、治療には後頭部の毛髪を前頭部に移植するなどの方法がとられている。

「しかしこの治療は、単なる髪の毛の『引っ越し』であって、毛髪そのものが増えるわけではないため、根本的な解決にはなりません。毛包を臓器として再生させることができれば、根本的な治療につながるはずです。毛は歯と違って、成人したあとも毛包から上皮性幹細胞と間葉性幹細胞の2種類の幹細胞を採取することができるという大きなメリットがあります」

毛は、皮膚の深い部分にある毛乳頭と比較的浅い部分にあるバルジ領域などから構成されており、そのうち毛乳頭には間葉性幹細胞が、バルジ領域には上皮性幹細胞がある。この2種類の幹細胞を本人の皮膚から採取して、器官原基法で毛のタネをつくり出し、毛髪が失われた部位の皮膚に移植すれば、再生臓器としての毛ができる。

「私たちは大人のマウスから上皮性幹細胞と間葉性幹細胞を採取して、歯と同じように作成した毛のタネ(再生毛包原基)を体毛のないヌードマウスの背中に移植しました。すると、3週間後に約7割の確率で毛が生え、3~5㎜まで伸びたのです。毛の硬さや縮れ毛などの特徴も同じで、自然の毛同様、周期的に生えかわりました。再生した毛髪はそのままだと色がついていないのですが、毛のタネをつくるときに色素性幹細胞を加えることで黒い毛ができました」

再生毛を移植したマウス

毛のないマウスの背中に毛が生えたんだって!

辻先生は現在、この技術を応用して2020年をめどにヒトの毛での再生を成功させたいと考えていて、民間企業や北里大学医学部と共同研究をしているところだという。
どのようなステップで、毛髪再生の実現をめざしているのだろう。
「まず、マウスから採取した幹細胞を生体外で増やさなければなりません。ところがここが難しいところで、増殖させようとすると、幹細胞は自分が幹細胞であるという記憶を忘れてしまうため、増殖しても機能がなくなってしまいます。この問題がクリアできたら、次はヒトの毛から2種類の幹細胞を採取し培養し、マウスにヒトの毛を発生させる研究をします。そして、ヒトの再生毛をヒトへ移植する臨床実験を行うというプロセスを考えています」

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