中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

細胞の声に耳を傾けることが大切

将来的には製薬企業やヘルスケア企業をはじめ、半導体メーカーなどの異業種とも連携し三次元の組織や器官の立体培養をすすめ、再生医療の臨床応用と産業化を推進し、社会に貢献できる研究につなげたいと熱く語る辻先生は、臓器再生研究の魅力に引きつけられた一人だ。
「九州大学では肝臓再生の研究室にいました。もともと建築が好きだったこともあって、臓器や器官の再生というのは細胞を使った建築ではないかと思ったのです。そうして研究を始めるうち、細胞を使った臓器再生の面白さのとりこになりましたね」

企業に就職し、造血幹細胞の研究が一段落ついたあと、もっと自由に好きな研究がしたいと東京理科大で研究室を立ち上げたときは、これまでの専門分野と違ったため、歯についての基礎的な知識を学ぶことから始めなければならなかった。研究予算も少なく、研究室の学生も3人という少人数でスタート。それでも、自分のアイデアをもとに研究に打ち込める喜びは何物にも代えがたく、学生たちと一緒に研究に没頭していったという。約7年後、前述した通り、世界で初めてモデルマウスを使った歯の再生に成功し、世界の注目を集めることになる。

「臓器再生の研究をして細胞を扱ううち、重要なことは細胞の声に耳を傾け、細胞同士が対話するのを助けることだと思うようになりました。そこが例えば、ロケットなど、これまでにない製品をつくるのと決定的に違うところです。ロケットは何もないところからつくり上げますが、細胞を使った臓器再生は、すでに細胞というからだの中に出来上がったものを使うのであって、生物を私たちの支配下に置くのではありません。生物から学んでいくことが大切だと痛感しました。細胞を研究者の都合に合わせるのではなく、細胞の都合に研究者が合わせていくことが重要なのです。細胞の中には小さな宇宙がある。細胞を研究することは本当に楽しいですよ」

東京理科大学の学生たちと一から研究を初めて、経験が少ないながらも、チームプレーで世界に伍する研究ができたと振り返る辻先生。日本の若者の力は、どの国にも決してひけをとらない。自分の興味ある分野にどしどしチャレンジしてほしいと呼びかけている。

(2016年2月23日取材)

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