中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

大人のイモリは再生戦略を切り換えている!

「一般に両生類は、水で暮らす幼生期には、イモリ同様、高い再生能力を持ちます。たとえばカエルでいえば、オタマジャクシのころは肢が切れても指も含めて元通りに再生しますが、変態してカエルになったあとは、切断面がこぶ状に盛り上がる程度です。ところがイモリは、大人になってからも高いレベルの再生能力を保ち続け、年齢に関わらず生涯にわたって何度でも再生できるのです」

両生類一般

イモリと同じように、両生類で高い再生能力を持っているのが、アホロートルである。白っぽいからだにちょっと扁平な大きな頭、その両サイドには3対のフリルのような外エラがついている。そして幼さが残る愛嬌のある丸い目。「ウーパールーパー」として知られるメキシコ原産のサンショウウオだ。
両生類は通常、幼生のオタマジャクシの間はエラで呼吸し、大人になって陸に上がってからは肺呼吸に切り替えるのに対して、アホロートルは大人になってからも水中で暮らし、エラで呼吸する。このように、姿かたちや暮らし方が幼生の状態を残しているのにもかかわらず、性的には成熟して子どもを産む能力を持っている。いわば「赤ちゃんのまま大人になってしまった生き物」がアホロートルで、こうした形態のことを「幼形成熟(ネオテニー)」という。

「アホロートルは幼生の高い再生能力を保ったまま大人になった特殊な両生類です。アホロートルが肢の筋を再生するにあたっては、肢の筋線維に内在する幹細胞(筋幹細胞/筋前駆細胞)から新しい筋線維がつくり出されるのですが、これは、永遠の赤ちゃんだから可能なのだと考えることができます」

アホロートルの戦略

ではイモリは、アホロートルと同じように大人になってからも幼生時代と同じしくみで四肢を再生させているのだろうか? それとも大人になったときに、新たな独自の再生のしくみを獲得したのだろうか?

イモリの肢を切断すると、2~3日かけて周囲から上皮細胞が移動してきて切断面を覆い、覆われた傷口はかさぶたなどができずになめらかな組織になる。その後30日ほどで切断面がふくらんできて「再生芽」と呼ばれる細胞の塊ができ、その再生芽が伸長していって指ができ、2~3か月で肢が再生される。

左が切断前。右が切断後の変化(日数)
出典:Nature Communications. 7:11069:A developmentally regulated switch from stem cells to dedifferentiation for limb muscle regeneration in newts(「イモリにおける肢筋再生のための発生によって制御される幹細胞から脱分化への切り替え」)より

「これまで再生芽には、いろいろな細胞に分化できる多能性幹細胞が数多く含まれていて、その幹細胞の働きによって骨や皮膚などが形成されるのではないかと考えられていたのです。ただ、本当にそうなのか、別の再生メカニズムが働くのか、検証することはできませんでした。再生に動員される細胞の系譜を解析することが技術的に困難だったからです。私たちは2011年に、イモリに高効率で遺伝子を導入する技術を世界で初めて開発しました。そしてこの技術を応用し、皮膚や骨、筋、神経の細胞を蛍光標識することで、どの系統の細胞から肢の組織が形成されるのか、細胞分化の系譜をたどったのです」

千葉先生たちのこの研究によって、250年の謎の解明に大きく近づいた。
「イモリの肢の筋線維は、たくさんの核をもった細胞(多核の細胞)が集まってまるでチューブのような形で出来上がっていますが、イモリの肢を切断すると、これらの多核の細胞がばらばらの単核の細胞になり、筋線維を新たにつくり出していました。この新たな筋線維を材料にして、大人のイモリは自らの肢を再生していたのです。このとき筋幹細胞が動員されることはありませんでした。一度分化して筋細胞になった細胞を、もう一度筋細胞をつくりなおすようにプログラムし直している。専門用語でいうと、『脱分化/リプログラミング』しているわけですね」

一方、幼生のイモリでは、アホロートルと同様、筋に内在する幹細胞から新たな筋細胞をつくり出していたという。幼生時代は幹細胞、大人になってからは、「脱分化/リプログラミング」と、イモリは変態を機に、再生戦略を切り替えていたのだ!

イモリの戦略
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