中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

イモリへの遺伝子導入技術を革新

千葉先生はすでに2014年に、大人のイモリの眼の網膜を取り去ると、もとの細胞の特徴を一部保持したまま、発生の時計を少し巻き戻した独特の多能性細胞にリプログラムされることを発見した。

「イモリの網膜は神経性網膜と網膜色素上皮でできています。神経性網膜を取り除くと、10日までの間に、網膜色素上皮が一つひとつの細胞に分かれ、それらが塊をつくるのですが、その過程で、多能性を獲得するモノサシになる遺伝子が出現します。同時に、神経性網膜か網膜色素上皮のどちらになるかを決める遺伝子も出現し、細胞はどちらの組織にもなれる多能性を獲得します。そして、10~14日の間に、細胞の塊は二つの組織のどちらかになるように振り分けられ、増殖を始め、65日もすると網膜全体をまるごと再生させるのです」

イモリの網膜再生のようす

※この動画に音声はついていません。

網膜再生のビデオ
出典:Scientific Reports 4, Article number: 6043 (2014)  The newt reprograms mature RPE cells into a unique multipotent state for retinal regeneration(「イモリは網膜再生のために成熟した網膜色素上皮細胞をユニークな分化多能状態にリプログラムする」)より

イモリの再生メカニズムを探る千葉先生たちの研究で重要な役割を果たしたのが、先に少し触れたイモリに高効率で遺伝子を導入する技術だった。
「私たちの仕事で今でも非常に重要で、他の追随を許さないポイントとなっているのが、アカハライモリの遺伝子を改変し、細胞の機能解析や細胞分化の系譜解析を可能にしたことです。それまでも大人のイモリに遺伝子を導入する試みは行われていましたが、成功率が非常に低かったのです。たとえばGFP(緑色蛍光タンパク質)を使って、ターゲットとなる組織を緑色に光らせようとしても、組織当たり1つか2つの細胞しか光りませんでした。またイモリの受精卵に遺伝子を導入しようとしても、成功率はわずか0.1%程度にすぎませんでした。

そんなとき私の研究室で、遺伝子導入の際、運び屋(ベクター)として使うプラスミドとDNAを切断する制限酵素とを一緒にガラス針で卵に導入する方法を開発、成功率を約20%にまで高めることができたのです」

卵に遺伝子を導入してから、イモリが変態して大人になるまで1年もかかるなど、実験動物として安定的にイモリを使うにはさまざまな困難があったが、先生たちは粘り強く研究を続け、イモリのからだの各部位の再生メカニズムを次々に明らかにしている。
「今後はさらに探究を進め、どんなスイッチが入って体細胞のリプログラミングが起きるのか、また四肢の複雑な三次元構造や機能を完璧に復元するためのメカニズムを探究したいと考えています」

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