中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「イモリネットワーク」を結成し、イモリの自然繁殖にも挑戦

さて、地球上には多種多様な生き物が存在するが、なぜイモリだけが独自の高い再生戦略を身につけたのだろう。

「私たち人類を含めた脊椎動物の祖先は魚類で、その一部がサンショウウオやイモリのような両生類に進化し、さらに陸に上がって生活するようになったわけです。その進化の過程で、一般に陸に上がった四肢動物は再生能力を失くしてしまいましたが、イモリだけは高い再生能力を維持しています。
当初私は、イモリがプロトタイプで、ヒトを含めた四肢動物は何らかの理由で再生能力を失ってしまったのだと考えていました。けれども研究を続けるうち、出生後(羊水から出た後)はからだを再生できない私たちのような四肢動物がプロトタイプなのであって、イモリは突然変異だと考えるようになりました」

では、イモリにとって、この高い再生能力はどんなメリットがあるのだろう?
「いや、大人のイモリの再生能力は彼らにとってほとんどメリットがない進化なんですよ」と、千葉先生は意外なことを教えてくれた。
「目の再生には神経組織が再生するのに約2か月、そこから脳に神経が投射してものが見えるようになるまで、合わせて半年かかります。その間、見えない。手や肢も再生するのに100日以上かかる。その間歩けない。目が見えない、あるいは動けないとなれば、敵が襲ってきても分からないし、逃げようがない。脳や心臓など生命に直結する部位にしても、たしかに実験ではその組織の一部が再生することは分かっていますが、現実問題として、心臓や脳にそれだけのダメージを受ければ普通生きてはいないはずです。そうしてみてくると、イモリの再生戦略は生き延びるうえで何の利益ももたらさないんですね(笑)」

イモリにとってはメリットがなくても、研究者にとってその再生力は非常に魅力的だ。実際、千葉先生の研究室で学ぶ学生の多くは、なによりも再生のメカニズムのすごさに圧倒され、その秘密を解くことに熱中するらしい。

とはいえ、イモリの研究はそれほど簡単なことではない。イモリ再生のしくみを研究するには年間1000匹ものイモリが実験に必要だが、研究室で繁殖させるだけでは、とてもそれだけの数を供給することはできない。そこで、数年前から筑波大学の研究者が中心となって、イモリの研究者組織「イモリネットワーク (Japan Newt Research Community)」が設立され、茨城県取手市にイモリの自然繁殖ができる「いもりの里」もつくられた。

千葉先生は、休耕田を田んぼに戻した「いもりの里」で、今日も学生たちに交じってイモリの研究にいそしんでいる。千葉先生に好きな言葉を聞いてみると「Listen to Nature」と答えてくれた。

「いもりの里」は、昭和40年以前の谷津田・里山を復元・維持することで、研究・教育用のアカハライモリを育てようとスタート。行政、NPOなどとも協働で、子どもたちや市民を対象にイモリを題材にした生命環境科学教育や、里山のくらしを学ぶ講座が開催されている
写真提供:千葉親文准教授

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