中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

イモリで得た知見を、再生医療やがん研究に役立てたい

イモリの再生研究は、単に動物のユニークなからだのしくみを解明するにとどまらない。私たち人間にとっても貴重な科学的知見を与えてくれるという。
「実は私たちヒトも、母親の胎内にいて羊水に囲まれている間は、比較的高い再生能力を持っているのです。それが年齢を重ねるにつれて、多能性を持った細胞がどんどん減り、あるいは働けなくなって、皮膚のちょっとしたキズを元通りにするといった、限定的な再生能力しか持たなくなってしまう。ところが大人のイモリの再生で重要なのは、すでに分化し終わった細胞を使いこなすというところです。そのときどんな遺伝子が関与しているのか、どんな酵素や分子メカニズムが働いて細胞のリプログラミングが起きているのかが明らかになれば、たとえば損傷した網膜や、怪我や病気で切断しなくてはならなくなった四肢の再生に役立つ薬剤が開発できるかもしれません」

iPS細胞を使って再生治療を行うには、体細胞を体外でいったん初期化して、目的の細胞や組織に分化・誘導し、移植するというプロセスが必要だが、イモリの再生戦略を応用することができれば、わざわざ移植をすることなく、いまある細胞の一部のプログラムを書きかえることによって自己再生ができるはず、と千葉先生は言う。

「もう一つはがん研究への貢献です。大人のイモリが肢を自己再生する場合、たくさんの筋細胞が必要となるため、ものすごい数の細胞分裂が必要になります。私たちの細胞で考えると、細胞分裂をすればするほど、がん化しやすくなるというのが常識ですね。ところが、イモリの場合、驚くほど多くの細胞分裂をしているにもかかわらず、がん化することなく正常な肢を再生します。おそらく再生の過程で、異常な細胞を排除するシステムがあるのでしょう」
例えば、イモリのからだに、がん化を誘発する遺伝子を導入した細胞を移植すると、自分に栄養を取り込もうと周辺から血管を呼び込んで、その部分が膨れあがるのだという。しかしそれらの細胞は、いつの間にか消えてしまうらしい。まだ研究の途中だが、もしかすると、すごくパワフルな免疫細胞(貪食細胞)によって、がん細胞が食べられてしまうのかもしれない。

イモリの再生戦略の研究が、ぼくたちの再生医療やがん研究に役立つんだって!

いずれにしても、イモリの再生研究は、これまでとは違った視点からの再生医療やがん研究に結びついていく可能性を持っている。
「私の夢は、イモリの再生現象の全体像を解明して、人の医療に応用すること。研究で動物を殺生するのですから、自分の研究の意味を子どもたちにちゃんと語れなければならないと思っています。将来、ケガや病気で苦しんでいる人の役に立つ研究をしているのだよと、伝えたいですね」

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