中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

尿をつくり出す第一歩

さて、ヒトiPS細胞から腎臓の基本単位ができたといっても、大きさはまだ2mm程度、成熟度もまだまだだった。もう一つの腎臓構成要素である尿管芽をつくり、本当の三次元構造の腎臓をつくらなければならないし、さらに血管を取りこみ、尿をつくるという機能を持った腎臓にする必要がある。

そこで、太口さんは試験管内でつくったヒトiPS細胞由来のネフロン前駆細胞をマウスに移植することにした。しかし、普通の方法でマウスの腎臓の皮膜下に移植しようとしても、スペースが狭いのでつぶれてしまう。寒天の棒を押し込み、空間を広げるとうまく移植することができ、腎臓構造がさらに成熟し、ヒトの糸球体にマウスの血管が取り込まれることがわかった。
「生体内と同じような環境で、血管と隣接することで成熟していきました。特徴的なろ過膜構造をつくり出していて、糸球体内でろ過を示唆する物質も観察されたのです」

この研究成果を発表したのが2015年11月のこと。尿をつくるという腎臓の機能獲得に向けた大きな一歩だと話題を呼んだ。

血管を取り込んだヒトiPS細胞由来の腎臓糸球体
(左)下部の隙間が拡張し、ろ過を示唆する物質が存在する。
(右)マウス血管(緑色)がヒトiPS細胞由来のポドサイト(糸球体のろ過機能を司る細胞。この写真では桃色)来の間に入り込んでいる。(スケールバー:ともに20µm)

ポドサイトに形成されたろ過膜構造(矢印)(スケールバー:0.2µm)

腎臓の元となる細胞をマウスに移植したところ、成熟が進んで血管が取り込まれたんだて。次は尿をつくり出すことが目標だ!

「腎臓は、血液とつながり尿をつくってなんぼの臓器です。この研究ではまだ糸球体が血管とつながったという入口の部分ができただけ。次のステップは、尿管芽をつくり一本の管として糸球体とつなげて、尿をつくり出すこと。これまでと同様、尿管芽はどこからきて、どういう条件で誘導できるのか、一つひとつのステップを明らかにしていくつもりです」

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