中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

腎臓はまだまだ謎だらけ

西中村先生の今後の目標は、あくまで機能する腎臓をつくりあげることだという。

「当面のターゲットは尿管芽の形成ですが、さらに間質など、第3、第4のコンポーネントが必要かもしれません。そのときは、やはり発生をさかのぼって、何がどうできていくかを確かめながらそれぞれのコンポーネントをつくり出し、それをどう組み合わせていくかを研究する。さらにそれらに血管を入れなければなりません。腎臓には心臓から送り出される血液の4分の1から5分の1が流れ込んでいますが、腎臓の動脈と静脈がどうつくられるのかもまだよくわかっていないのです。謎だらけなんですよ」

わかっていないことがあまりに多いとはいえ、「勝算はある」と先生は言う。
「最初にできるのは、ひょっとしたら5つのコンポーネントのうち2つか3つしか揃っていない、腎臓としてはみすぼらしい形かもしれません。それでも、ちょっとでもいいから尿が流れる腎臓をつくりたいのです。また、正常なサイズの腎臓組織でなくとも、透析に入るのは腎機能の10分の1しか残っていない人ですから、小さいものでもかなり役立つはずです。いったん基礎ができればあとは改善にすぎません。きっと誰かが達成してくれるでしょう」

腎臓をつくるというきわめてチャレンジングで、未知の研究に取り組む研究者に必要な資質は何だろう?
「旧制第五高等学校(熊本大学の前身)で学んだ物理学者寺田寅彦は、『科学者になるには頭が良くなくてはいけない。しかし一方で頭が悪くなくてはいけない』と述べています。論文を読んでわかった気になるだけでは評論家で終わってしまう。一方で泥臭いことに一生懸命汗をかかなくてはなりません。たとえば捨てるはずの細胞を試してみた太口さんや、教科書とは異なる低濃度を試した谷川さんのように、ある仮説を立てたとしても、それを越える可能性も試してみる。条件が増えて実験がたいへんになりますが、往々にしてそんな“想定外”から当たりが出るものです。こうした地道な努力を怠らないことですね」

ラボメンバーのこうした姿勢は、今回の地震からの復旧にあたっても十二分に発揮されたという。未知の事態に遭遇しても、どんな手順で、どう作業を進めればいいか、論理的に手順を組み立て、一丸となって事にあたった。
「たしかに世界との競争という意味では、何ヶ月か停滞はしたかもしれません。でも、困難を切り開いていく力があるからこそ、夢を現実にしていく力も生まれるのです。機能する腎臓をつくり出すという大きな目標に向けて、これからもチャレンジを続けていきますよ」

損傷した発生研の建物の前で

(2016年7月29日取材)

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