中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

大きな問いを立てよう

宮川先生は、今後はさらに、最新の手法も使って、脳の神経細胞が未成熟な状態になる分子メカニズムを探求していきたいという。
「光遺伝学の進展によって、特定の神経細胞だけを脱成熟させることも容易になりました。光刺激を加えると、しばらくは脱成熟した状態が続くのですが、すぐに再成熟してしまいます。刺激を何回も与えると、再成熟しないで、脱成熟したままになる。おそらく、細胞の性質が変わってゲノムレベルでの変化が起きているのだと思います。そのプロセスで具体的にどのような変化が起きているのか、そのメカニズムを分子レベルで解明すれば、統合失調症などで脳の神経細胞の脱成熟が起きている患者さんの治療に役立てられるのではないかと考えています」

さらに最近では、生きた脳の深部を見ることができる微小光ファイバマイクロスコープも導入され、脳の数百個の神経細胞の発火パターンをモニターできるようになったという。例えば、ある活動をしているときに海馬がどのように活動しているのか、脳の発火パターンを読み取ることにより、マウスが何を考えているのかを推定できる。脳のどこが脱成熟しやすいのか、そのときに脳で何が起きているのかも、リアルタイムで把握できるようになるはずという。

遺伝子と脳とこころの探求は、さらにエキサイティングな研究になる、と語る宮川先生に、最後に研究者をめざす若い人へのメッセージをうかがった。

「“What is time?”“What is space?”といった大きな疑問からスタートし、その問いに関する資料を調べ、この問いに対して現状ではどこまで答えが出ているのか、何が本質なのかをつかんだ上で、ブレークダウンしたテーマを見つけてほしいと思います。いきなり重箱の隅をつつくような細かいところからスタートしても研究はおもしろくなりません。大きな問いに答えるなかで、画期的な研究が生まれるのです」

(2016年11月28日取材 2017年1月公開)

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