中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

RNAは探偵、Cas9は殺し屋

「二人の博士のチームは、侵入してくるウイルスを切り刻むために、Cas9というDNA切断酵素が刀の役割を果たしていること、そして、標的となる配列を見つけるためにRNAが重要な働きをしていることを突き止めました。DNAは自分が持っている遺伝子情報をRNAに転写してタンパク質の合成を行いますが、細菌はウイルスのDNAを自分のDNAの中に取り込んで保存しておきます。同じウイルスが再度侵入してくると、そのDNAのコピーをRNAに移して、そのRNAが巡回してウイルスを検知するというわけですね。
このRNAがガイド役になり、制限酵素のCas9と複合体を形成し、ウイルスを思い通りの位置で切断する。これがCRISPRシステムの全貌であることを解明したのです」

つまり、細菌のDNAから写し取られたRNAは、犯人を探し出しその居場所を教える探偵、Cas9は鋭い刃物を持った殺し屋、この最強コンビでターゲットを始末してしまうと考えればわかりやすいかもしれない。

「ダウドナ博士とシャルパンティエ博士は、このウイルス撃退法はゲノム編集にそのまま応用できると考えました。切断したい目的のDNA部位に対応するガイドRNAを設計して化学合成し、これをCas9と一緒に目的の細胞に導入すれば、任意の位置でピンポイントでDNAを切断できるからです」

このCRISPR- Cas9によるゲノム編集は、DNAを切断するハサミとして、従来の制限酵素(タンパク質)を使わず、RNAを使ったことに大きな特徴があった。先にふれたようにタンパク質をつくるのは大変な作業だが、RNAを化学合成でつくるのは、比較的簡単なのだという。しかも、ZFNやTALENのように、ターゲットとするDNA配列ごとにつくり替える必要がなく、汎用性があることも大きなメリットだという。
「ガイドRNAもCas9もすべて市場で入手することができ、混ぜて使えばすぐにゲノム編集が可能になるんです。ガイドRNAが間違ったDNA配列を選択することもほとんどない。目的のDNAの切断の確率は、導入する受精卵や対象となるDNAの状態によって多少の違いはあるものの、8~9割くらいの成功率なのです」

こうしてみてくると、CRISPR- Cas9によるゲノム編集がいかに簡便で汎用性が高い画期的なものであったかがよくわかる。

DNAの二本鎖が切れると、切れた部分を修復しようとする。このとき、ゲノムDNAに導入したい遺伝子を入れるのがノックイン、うまく修復できずに塩基が欠失したり、余分なものが入ってしまい遺伝子が破壊されるのがノックアウトだ。

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