中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

ヒト化動物をつくり、医療や創薬に役立てたい

真下先生が今後進めていきたいと考えているのは、ヒトの疾患モデルとなる動物をゲノム編集でつくること。これまでの遺伝子改変は、ES細胞を使って行い、キメラ動物を経てつくるプロセスをたどるため、マウスが大半で、時間がかかっていた。
「しかし、CRISPRによるゲノム編集の技術を使えば、受精卵に直接注入することで遺伝子改変ができるので簡便ですし、ラットをはじめ、ウサギ、マーモセットなどにまで対象を広げられるでしょう」
ラットはマウスよりも病気の特性がヒトに似ているため、よりヒトに近い形で薬の効能などが検証できる。またウサギであれば、関節や眼などの病気のモデルに適している。マーモセットは、実験動物中央研究所などを中心に脳の疾患モデルとする開発が進んでいる。

「さらにゲノム編集によって、ヒトの遺伝子を持ったラットや、一つの遺伝子だけでなく、細胞や組織まるごとをヒトと同じものにしたラットをつくることができます。例えば、免疫不全ラットをつくり、肝臓の細胞をまるごとヒトの肝臓の細胞に置き換えてしまうのです。するとヒトでの薬の代謝の実験がラットでできるわけです。疾患の研究や薬剤の開発にあたっては、ヒトを使った実験ができないことは多いので、今後、大いに期待できます。こうしたヒト化動物の開発を進め、医療や創薬に貢献していきたいのです」

ゲノム編集技術にまつわる技術革新のスピードは速い。CRISPRの登場以来、ゲノム編集への関心と期待も高まっている。こんななか2016年4月に、早くからゲノム編集に着目して研究を続けてきた広島大学・山本卓教授が会長、真下先生が副会長となり「日本ゲノム編集学会」が発足。300名を超える研究者が参加してくれたという。
また、16年12月には、大阪大学にゲノム編集センターが誕生し、国内外のゲノム編集技術のサポートを行うとともに、ゲノム編集動物のバンク化を推進する体制も動き出した。

「日本における本格的なゲノム編集は始まったばかりです。これからは、研究の進展とともに、ゲノム編集技術が進化することによって起きるさまざまな問題についても考えていかなければなりません。ゲノム編集による食料や飼料の生態系に及ぼす影響、さらにヒトへの導入による安全性の確認や倫理的な問題などに目を向けることが必要になると考えています。まさに、これからなのです」

(2017年3月31日公開)

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