公益財団法人テルモ生命科学振興財団

財団サイトへもどる

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

サイト内検索

ヌクレオソーム線維の不規則な収納のメリットとは

規則正しいクロマチン構造が存在せず、不規則に折りたたまれているとすると、そこには何らかの生物学的な合理性があるに違いない。

「考えてみると規則正しいクロマチン線維や階層構造をつくるにはかなりのエネルギーが必要です。生徒に校庭で集合をかけても、号令をかけない限りバラバラでしょ。整列させるにはエネルギーがかかる(笑)。それと同じです。また、染色体のある特定のDNAが必要になったとき、すべてをほどく必要がありますよね。これにもまた、かなりのエネルギーが必要です」

さらに、きっちりと規則正しく収納されているより、ある程度いい加減なほうが、ヌクレオソームが細胞の核や染色体内で自由に動けるのではないかという仮説も立てた。これによって、ゲノムDNAにアクセスするタンパク質も移動しやすいのではないかというのだ。

「仮説を検証するために、ヌクレオソームを構成しているヒストンの一部を蛍光標識し、特殊な蛍光顕微鏡を使って1個1個のヌクレオソームの動きを解析しました。すると、細胞の核においても、染色体内においても、30ミリ秒というきわめて短い時間に50-60ナノメートル動いていることが確認できたのです! この揺らぎはブラウン運動*によるものだと私たちは考えています」

*ブラウン運動:小さな生体分子は体温環境下の溶液中でランダムに動く。これがブラウン運動で、この「揺らぎ」が細胞内の物質輸送などの生命現象に必須であることがわかってきた

ヌクレオソームを構成しているヒストンH2Bを蛍光標識しヒト細胞のなかで発現させ特殊な蛍光顕微鏡システムで毎秒20枚撮影。1個1個の白い輝点が1個1個のヌクレオソームを示す

ヌクレオソームが核内や染色体内で揺らいでおり、その中をタンパク質が動く様子の概念図。ヌクレオソーム(オレンジ)がブラウン運動によって小刻みに動くことによってできたスペースをタンパク質(緑)が動くことで、目的の位置(青)にたどり着くことができる

揺らいでいるほうが、タンパク質が動きやすいんだ!

前島先生たちは、理研・高橋恒一チームリーダーらと協力して、「モンテカルロ法」というコンピュータシミュレーションを用いて、染色体内でタンパク質がうまく動けるかどうかを検証した。するとヌクレオソームが静止した状態では大きなタンパク質は動けないが、小刻みにヌクレオソームが動くとタンパク質が自由に動けることがわかった。

「ちょうとギューギュー詰めの満員電車でも、一人ずつがちょっとずつ動くことで奥にいる乗客がちゃんと降りられるのと同様です。また、スカスカの状態においても、ヌクレオソームが揺らいでいるほうが、タンパク質がより動きやすいこともわかりました。このことは遺伝情報の検索や読み出しのメカニズムに密接に関連しているのではないかと思います」