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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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腸内細菌のメタゲノム解析とは

「ビフィズス菌入りヨーグルト」、「ガセリ菌で腸活」、などというフレーズは、みなさんにもおなじみだろう。腸内にすむさまざまな細菌が、食物の消化や吸収のために働くだけでなく、免疫系や神経系の働きとも密接に関わり、ヒトの寿命や健康に大きな影響力を持っていることが近年次々に明らかになり、大いに注目を集めている。

そもそも腸内細菌は、いったいどれくらい存在しているのだろう?

「腸内細菌をはじめ、私たちの身体の中には、食べ物の入り口である口腔、呼吸の出入り口である鼻咽腔、ものに接触することが多い皮膚などに、それぞれ固有の細菌集団がすみついていて『細菌叢(マイクロバイオーム)』を形成しています。その数は、1000種類・100兆個を超えるといわれていて、成人男性の場合、重さにして約1.5kgにもなります。この中で最も多くの種類と数が生息しているのが大腸だ。

山田先生が学生たちとつくった「ヒト細菌フローラマップ」。ヒトの身体の各部位にすみついている細菌叢のうち代表的な細菌を紹介している。細菌叢は「細菌フローラ」とも呼ばれ、細菌が集まった様子が色鮮やかで、きれいなお花畑(フローラ)のようだとして命名された

拡大して見ると、身体のあちこちにいろんな細菌がいることがわかるよ!

ではどんな種類の細菌が腸内にすみついているのだろうか。ヒトの腸内細菌のパターン(エンテロタイプ)を調べると、主要成分はおおよそ3タイプに分かれ、最も多いのがバクテロイデス属、次に多いのはプレボテラ属、第3勢力は、その他のいろいろな菌が雑多に存在するグループだが、その中ではルミノコッカス属が比較的多いといわれる。エンテロタイプは人種や年齢、性別に依存しないといわれてはいるものの、詳しく見ていくと、人種によって多少の偏りがあるようだという。しかし、興味深いことに、属より下の株(ストレイン)のレベルで見ると、親やきょうだい、一卵性双生児であっても一人ひとり違いがあるのだ。

「生まれたばかりのときは無菌なんです。それが母乳を飲むと、母乳中のオリゴ糖を分解し栄養源にすることができるビフィドバクテリウム、つまりビフィズス菌が増えてきます。すると腸内環境が酸性になって、感染を防ぐ働きをする。離乳食を食べるようになると、今度はそれを分解できるバクテロイデスが増えていき、こうして、食事内容や、免疫をはじめさまざまな要因によって、おなかの中に新しい菌が入ってきては、それまでの菌と生存競争をしながら、各個人にフィットしたものが定着していくわけです。つまり個人一人ひとりが自分の腸内にそれぞれの地球をつくっているようなものですね」

では腸内細菌叢のいったい何が、どのような機序でヒトの健康に影響を与えているのか、例えば、特定の疾病のかかりやすさなどに関係しているのかどうかなどを、「メタゲノム解析」という手法で解き明かそうというのが山田先生の研究だ。

腸内細菌のメタゲノム解析とは、どのような解析法なのだろうか?
かつて、肉眼では見えない腸管内の微生物を調べるには、便を採取して菌を分離し、寒天培地で培養して増殖させることが必要だった。しかし、高い培養スキルが求められる職人芸の世界で、人為的な培養が難しい菌も多く、同定できるのは1%以下に過ぎなかったという。
それが2004年ごろより、遺伝子の塩基配列を解読する新しいシーケンサーが登場し、培養という過程を経なくとも、細菌叢全体の膨大な遺伝子情報をコンピュータで解析することによって、どのような細菌がどのくらい存在しているかなどが容易に探索できるようになった。これがメタゲノム解析で、ツールの進展によって解析にかかる時間もコストも年々利用しやすいものになっている。

環境中(腸内など)の菌の遺伝子情報をまるごと解読。得られた数多くの300文字程度の短い塩基配列をパズルのように組み直し、データベースを参照しながらコンピュータで遺伝子配列を予測し、個々の核酸がどの微生物由来か(系統組成解析)、または、どの微生物由来かは不明でも、環境中の微生物の集合体がもつ遺伝子群(機能組成解析)を検出する