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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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腸内環境を調べれば薬の効果や副作用がわかる時代に

山田先生がいま、一番ホットな研究のテーマとしているのは、薬の副作用と腸内環境との関係だ。
「メタゲノム解析を行うと、この薬を飲んでいる人はどういう腸内環境なのかがわかります。すると、薬を飲んだときに副作用が出る人を、事前に腸内環境を調べることでスクリーニングすることができるようになります」

特に副作用が強くあらわれるのが抗がん剤だ。抗がん剤は活発に増殖する細胞に対して治療効果を発揮するが、皮膚や腸管、骨髄、毛根などの細胞も活発に分裂したり増殖したりしているため、これらがん細胞とは関係のない細胞まで抗がん剤が攻撃して悪影響を及ぼしてしまう。この副作用の度合いが、患者さんによって大きく違うのだ。
「患者さんの腸内環境を調べることで、副作用が強くあらわれるかそうではないかが事前にわかれば、一人ひとりの患者さんに合った、より効果的なテーラーメイドの治療法が実現できるでしょう」

今、注目されている薬に免疫チェックポイント阻害剤がある。私たちの身体には、異物が侵入してくるとこれを攻撃し排除する免疫機能が備わっている。しかし、免疫が高まりすぎても自らの健康な細胞を傷つけてしまうので、チェックポイントを設けて免疫にブレーキをかけ、うまくバランスをとっている。このブレーキ機能を巧みに利用しようとするのががん細胞で、自らを攻撃できないよう免疫にブレーキをかけてしまうため、免疫T細胞はがん細胞を攻撃できなくなる。そこで登場したのが免疫チェックポイント阻害剤で、現在、肺がんや胃がんなどいくつかのがんの治療薬として使用が認められている。
しかし、この薬は極めて高価で、発売当初100㎎あたり73万円の価格が設定され、肺がんの治療では1人あたり年間3500万円もかかる計算だった。保険が適用されるため、患者は一部負担で済むが、国の負担は莫大になるというので、半額に値下げされた。それでも医療経済面では大きな負担だ。

この免疫チェックポイント阻害薬の効き方に腸内細菌が影響していることがわかってきた。外国の研究報告では、免疫チェックポイント阻害剤で治療した患者の便を分析したところ、治療効果があった患者の腸内では、特定の細菌(ルミノコッカス属とフィーカリバクテリウム属)が多いことが明らかになったという。また、別の研究チームの報告では、抗菌薬を使っていた患者では免疫チェックポイント阻害剤の効果が低く、免疫チェックポイント阻害剤の治療を受けた患者の腸内環境を調べたところ、効果があった患者の69%でアッカーマンシア・ムシニフィラと呼ばれる細菌が検出されたのに対して、治療効果の出なかった患者でこの細菌が検出されたのは34%だった。
「研究が進めば、がん治療の現場で、抗がん剤の効果の有無を患者の腸内環境を調べることで診断するようになるかもしれません」