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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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大腸がんや動脈硬化、肥満、糖尿病にも腸内環境が影響している?

現在、山田先生が取り組んでいるのが、病気と腸内細菌との関係を解明することだ。
例えば大腸がんは、以前から腸内細菌が関与しているとの報告があったが、その詳細なメカニズムはまったく解明されていなかった。しかし、胃がんの発症要因の一つにピロリ菌があるように、大腸がんでも特定の菌が発症に関与しているかもしれない。

そこで山田先生らのグループは、大腸がんの発症に関わる腸内細菌を見つけるため、国立がん研究センターや慶應義塾大学と協力して、大腸がんの患者を含む1000名以上から便のサンプルを採取し、研究に取り組んでいる。データには、メタゲノムデータやメタボロームデータ(生体内でタンパク質や酵素がつくり出す全代謝物のデータ)のほか、内視鏡検査の所見やアンケート調査による生活習慣、食生活情報も含まれている。

山田先生によると、メタゲノム解析でもっとも大切なのは、いかに「ひもつきデータ」をたくさん集めることができるかだという。
「例えば、単にある人の腸内細菌叢にどんな菌がいるかがわかっても、それだけでは役に立ちません。対象となるのが男であるのか女であるのか、あるいは体重、身長、年齢、何らかの病気を持っているのか、薬は今何を飲んでいるのかといったより詳しい情報が集まることで、初めて意味のある解析ができるのです。共同研究で集めたデータを解析して、がんの発症以前にあらわれるわずかなシグナルや、たとえがんになっても早期がんの段階で見つけられるような腸内環境マーカーを発見しようとしています」

大腸がんの検査は、現在、便に血がまじっているかどうかで陽性か陰性かを判定する便潜血検査が一般的だが、この検査で大腸がんの可能性があると診断されたうち、がんが見つかるのは4%程度にすぎないといわれている。より精度が高いのは内視鏡検査だが、費用がかかるうえ、身体への負担も大きい。
もしどのような腸内環境が大腸がんの発症や進行に関わっているかが解明できれば、各人の腸内環境を調べることで、より手軽に安全に、大腸がんのリスクをいち早く見つけることできるし、早期発見によって早期治療につなげることが可能になる。
研究はかなり進んでいて、すでに山田先生らは、「超早期大腸がんマーカー」を開発中だ。また、時系列のデータも得られているので、大腸がんのステージの進行や、治療による腸内環境の変化も解析したいという。

大腸がんばかりではない。心筋梗塞や狭心症、脳梗塞などの原因となる動脈硬化にも、腸内細菌が関係している。
「動脈硬化と腸内細菌の関係はけっこう知られていて、肉などに含まれているカルニチンというアミノ酸由来の物質は、腸内細菌の代謝作用によってトリメチルアミンNオキシド(TMAO)という物質に変化し、動脈硬化を引き起こす原因になっていることがわかっています。腸内細菌と循環器系の病気は一見、関係がなさそうですが、食事でとった栄養素と動脈硬化の原因となるTMAOとをつなぐ働きを腸内細菌がしているという報告がなされています」

このほか、肥満との関係や、日本人に多い2型糖尿病の原因の一つとして腸内細菌の関連を示唆する研究、炎症性腸疾患と腸内細菌との関係を明らかにした報告など、腸内環境と疾病に関するさまざまな知見が報告されている。

健康な人の糞便を腸内に移植する「糞便移植」で、「クロストリジウム・ディフィシル感染症」という抗生物質の効かない腸炎の症状を改善しようという研究もあるよ。
このシリーズの第24回をを読んでね!

「いま注目の最先端研究・技術探検!」第24回
糞便移植で、腸の難病が治る!?
~慶應義塾大学医学部 消化器内科 金井隆典教授を訪ねて