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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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細胞内部の温度を測るナノ温度計で生物の熱産生と利用のしくみを1細胞レベルで解明したい~大阪大学 蛋白質研究所 鈴木団講師を訪ねて~

私たちヒトの体温はおおむね37℃前後。体温が1℃上がるだけで、調子が大きく狂ってしまうことは、みんなも経験があるだろう。生物のさまざまな機能をつかさどるタンパク質や酵素の働きも、温度によって左右される。そのとき、からだを構成する一つひとつの細胞の温度分布はどうなっているのだろう? 細胞と生体の化学変化の関係は? こうした謎に迫ろうと、細胞の温度を測るナノ温度計の開発が進んでいる。
ヒトの体温は約37℃

私たちヒトの体温はおおよそ37℃前後。北極圏に住んでいる人だろうと、赤道近くの人だろうとほぼ同じ。太った人もやせた人も、スポーツ選手だって、受験勉強で机に向かっている高校生だって、さほどの違いはない。
寒いときは毛細血管を収縮させることで放熱を抑え体温低下を防ぎ、暑いときや運動をしたときなどは発汗によって体温を下げるなど、人体には体温を一定に保とうとする働きがある。
もっとも、これは「平均」の話であって、1日のうちでも体温は上下するし、からだの各部位でも温度は違う。

では、私たちのからだを構成する最小単位である細胞1個レベルで見るとどうなのだろう?
細胞の中では、タンパク質の相互作用や細胞内小器官の輸送などが行われ、カリウムの濃度やイオン強度、pH などもさまざまに変化している。細胞内で産生された熱はどのように伝わっているのだろう? 細胞内部で生じる温度変化と生命現象には、どのような関係があるのだろう?

こういったことを探るためには細胞内の温度を計測することが重要だが、簡単なことではない。なんといっても細胞のサイズは10~30㎛程度*と極めて小さい。しかも細胞内部には、核や小胞体、水溶性タンパク質をはじめ、さまざまな生体分子が不均一に分布している。
*1㎛=1/1000mm

極微小空間である細胞内の温度をいかにして測るか? 2000年ごろから世界の多くの研究者が挑んでいるのが、「ナノ温度計」の開発だ。
大阪大学蛋白質研究所の鈴木団先生もその一人。ロシアやシンガポールの研究者らとともに、動物の1細胞レベルの温度変化をとらえようと研究を続け、オリジナルなナノ温度計を次々に提案してきた。

鈴木団(すずき・まどか)

大阪大学 蛋白質研究所 講師 / 科学技術振興機構 さきがけ兼任研究者

1999年早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。2005年早稲⽥⼤学⼤学院理⼯学研究科⽣命理⼯学専攻で博⼠号(理学)を取得。早稲田大学生命医療工学研究所助手、早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所、早稲田大学総合研究機構 主任研究員(研究院准教授)を経て、2017年10月より大阪大学蛋白質研究所蛋白質ナノ科学研究室講師。専門は、1細胞熱力学と筋生理学。