公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

不老不死のベニクラゲ若返りの秘密を解き明かしたい~ベニクラゲ再生生物学体験研究所を訪ねて~

地球上にいる動物は人間も含めて約145万種といわれ、そのすべてに寿命があり、寿命が尽きれば死んでしまう。ところが、例外の動物がいる。それは繰り返し若返ることができるベニクラゲだ。40年に及ぶクラゲ研究の中でベニクラゲと出会い、その“不老不死”の秘密を解明しようと研究者人生をかけているのが久保田信先生だ。
顕微鏡を見ながら赤ちゃんにエサやり。
「あっ、食べてくれた!」

紀伊半島の南西部に位置する和歌山県の南紀白浜。“海と温泉のリゾート地”として知られ、6頭のジャイアントパンダが暮らすアドベンチャーワールドも人気だが、京都大学の瀬戸臨海実験所や近畿大学の水産研究所などもあって、海洋生物の研究が盛んな地域でもある。その南紀白浜の海の近くに2018年7月にオープンしたのが「ベニクラゲ再生生物学体験研究所」。所長は、3月に定年退職するまで京都大学准教授を務めた久保田信先生。“不老不死のクラゲ”といわれるベニクラゲの研究者として世界的に有名だ。

そんな久保田先生がいるベニクラゲ再生生物学体験研究所を訪ねると──。

南紀白浜。京都大学瀬戸臨海実験所近くの浜辺。町のシンボルアイランドの円月島が右手に見える

ベニクラゲ再生生物学体験研究所。ロシアのアーチストが描いてくれたベニクラゲ類の絵が外壁を飾っている

広い研究所の一角で、久保田先生は真剣な表情で顕微鏡を覗き込んでいた。
人工飼育中のベニクラゲの“赤ちゃん”にエサを与えているところだった。

白浜産のニホンベニクラゲは大人になっても数㎜ほどの大きさで、その赤ちゃんとなると、とても小さなポリプの状態なので肉眼ではなかなか見えず、顕微鏡でないとはっきりわからない。その赤ちゃんを久保田先生は人工飼育で育てているのだが、まだ自分でエサを採って食べるところまでいってないので、毎日エサを与えている。

細い針を使ってエサをポリプの口のところまで持っていき、食べさせようとするが、これがなかなか難しい。
「まだ小さいからねー。なかなかエサをつかまんなー。おなかが減っているはずなんだけどね。食べてよー」
久保田先生はまるでわが子に話しかけるようにしてエサを食べさせようとする。

ポリプにエサやりをする久保田信先生

アルテミアという小さなエビを、赤ちゃんの口に入るよう小さく切って食べさせてあげているんだ

「ベニクラゲの飼育で難しいのは赤ちゃんのときだけなんですよ。大きくなったら自分で食べるようになりますからね。もちろん赤ちゃんであっても自然の中にいれば自分で食べるんです。自然界には無限のエサがありますから。そのかわり天敵も多いので生き残るのは大変です」
そう話す久保田先生、再び顕微鏡を覗き込みながらエサやりを再開。

「こんなにおいしいごはんをあげているのにナー。食べてくれなければ私まで食欲がなくなるよ。あっ、食べてくれた! うれしい!!」
水槽の中で暮らす6つの赤ちゃん全員がなんとかエサを食べてくれた。
別の水槽には、大人になった北海道産のベニクラゲが水中を漂っていた。

水槽中を漂う網走産のベニクラゲ

たしかに1㎝にも満たない小さなクラゲだ。真ん中のあたりの胃の部分が紅色で、それがベニクラゲの名前の由来という。そのベニクラゲを久保田先生はなぜこんなにまでして大切に育てているかというと、ベニクラゲは先生にとって特別の存在だからにほかならない。
クラゲに限らず地球上にいる多細胞動物のすべては、命を次の世代に継いで寿命が尽きれば死んでしまう。ところが、ベニクラゲは繰り返し若返りができる不老不死の生き物。しかし、ベニクラゲが不老不死である理由はいまだナゾのベールに包まれている。そのナゾを解き明かせば、もしかして人間の不老不死にも役立つかもしれない──。その夢を追って、久保田先生はベニクラゲを飼育しながら研究を続けているのだ。

久保田 信(くぼた・しん)

ベニクラゲ再生生物学体験研究所所長・代表

1952年愛媛県生まれ。75年愛媛大学理学部卒業。81年北海道大学大学院博士課程修了。理学博士。82年同大学理学部助手。92年京都大学理学部附属瀬戸臨海実験所(現在のフィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所)助教授。2018年定年で退職し、同年7月ベニクラゲ再生生物学体験研究所を設立。12年ニューヨークタイムズがベニクラゲ研究をドキュメンタリー記事で紹介し、その縁で出演した「Spira Mirabilis」が16年のベネチア国際映画祭でGreen Drop賞を受賞。田中光二著「南紀白浜磯釣り殺人事件」の登場人物のモデルでもある。『不老不死のクラゲの秘密』、自身が歌ったCDつきの『神秘のベニクラゲと海洋生物の歌』『若返るベニクラゲとその人類進化への寄与』『魅惑的な暖海のクラゲたち』など多くの著書がある。趣味はカラオケ。

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