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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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シリアンハムスターの夏のからだと冬のからだの違いを調べる

ところで、冬眠動物といっても、クマのような大型動物とリスなどの小型動物では冬眠のパターンは違う。
たとえばクマの場合、秋にたくさん食べたあと冬眠に入ると、春まで飲まず食わずで過ごす。ただ体温は冬眠中もあまり下がらない。ふだんの体温は37~39℃ほどだが、冬眠中は31~35℃ほど。このため目覚めるとすぐに動き出せるのだという。
一方シマリスやハムスターなどの小型の冬眠動物は、数か月にわたる冬眠期間をずっと寝て過ごすわけではなく、穴の中に食べ物を貯蔵しておき、ときどき目を覚ましてそれを食べる。そのため、体温が10℃以下までに下がった深い冬眠の状態と、37℃ぐらいの中途覚醒状態とを繰り返す。

また、クマ、シマリス、ジリスなどのように、冬になると必ず冬眠する「義務的冬眠動物」と、ハムスター類のように条件さえ揃えばいつでも冬眠できる「条件的冬眠動物」とがいる。
「シマリスは1年に1回しか冬眠しません。からだの中に1年の時計を持っているといわれていて、1年周期できれいに冬眠します。1年に1回しか冬眠させられないので再現性を調べようとしたら10年かかるというわけです」

山口先生が研究のモデル動物として選んだのは、ハムスター類の中のシリアンハムスター(ペットショップではゴールデンハムスターとして売られている*)だ。
「ハムスター類は、気温が高くて日が長い夏条件から、寒くて日当たりを短くした冬条件の環境に変えると、季節にかかわらずいつでも冬眠できます。これなら、冬じゃなくても冬眠研究ができる。また、シリアンハムスターは、野生で捕獲されるリスなどの冬眠動物とは異なり、遺伝的にかなり均一な集団から供給されているので遺伝子を解析するうえでもやりやすい。そこで飼い方を教わりながら、どんな条件下で冬眠に移行するかや、そのときのからだの変化を探る研究を始めました」
*家庭でペットとして飼われているハムスターは冬眠させない方がよいでしょう。条件が整わずに冬眠すると、死んでしまう恐れがあります。

シリアンハムスター。原産国はシリアなどの中東地域
写真:gonbe / PIXTA

試行錯誤で研究を進めるうち、長日(明暗周期=16:8 時間)・温暖(23ºC)条件で育てたシリアンハムスターを短日(明暗周期=8:16時間)・寒冷(4℃)条件下に置くと、約2か月から3か月のあいだ体温37ºC 付近を維持したのちに、冬眠を開始することがわかった。

「冬仕様のからだになるまでに一定の時間がかかるわけですね。しかも、体重が重いほど、冬眠状態に移行するまで長くかかるのです。冬眠を始めたときの体重は、どの個体も140g を下回っていました。おそらく太っていると熱をつくり出せるエネルギーが多いため、まだ冬眠しなくても冬を越せると冬眠に入らないんじゃないか。何らかの仕組みで体内に備蓄しているエネルギー量を感知しているのだと思います」
また、最初の冬眠の前に基礎体温が1℃ほど低下し、冬眠に入ってからは一気に基礎体温が低下。その後、深い眠りについているときと途中でエサをとるときとで、心拍数や深部体温が大きく変化することも観察できた。

実際に冬眠中のシリアンハムスターの映像を見せてもらった。先生が丸まったシリアンハムスターをつつくと……。
「ほら、低体温になっているから触られても動きません。冬眠時は大脳表層の脳波はとれないんです。随意運動もなくなっていて、心拍数もすごく落ちています。それが触られて1時間ぐらいすると、触られたことが刺激になって、寝ている場合じゃないと起きてくるんです」
起きたてのハムスターは、まだ目が開いておらず、まるで寝ぼけた子どもみたいだ。最初は足がしびれたときのようにうまく歩けないが、10分もすると元気になって動き回るという。起こしてごめん!

冬眠中のシリアンハムスター

冬眠中のシリアンハムスター。丸くなっていてかわいい!