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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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脂肪組織を活性化して“冬支度”

夏のからだと冬のからだの違いを調べていて、興味深いことがわかった。脂肪細胞が変化するのだ。

「哺乳動物の冬眠を可能にする仕組みの一つに、脂肪の有効活用があります。クマやジリスなどが冬眠中に絶食状態でいられるのは、冬眠する前に体内に脂肪を大量に蓄えて、その脂肪を燃やしてエネルギーにしているからですね。これに対してシマリスやハムスターは、同じように体内に蓄えた脂肪を活用するんですが、脂肪の量には限りがあるため、巣穴にエサを蓄えておき、ときどき起きてエサを食べるのではないか。冬眠中に彼らがどのように脂肪を使っているのか、それを調べようと考えたわけです」

そこで山口先生らは、空腹時や冬眠時のエネルギー源として重要な脂肪を蓄える組織である白色脂肪組織の変化を解析した。その結果わかったのは、冬のからだになったハムスターは、脂肪を分解してエネルギーを取り出す能力と同時に、脂肪をつくる能力も高まっていることだった。
「こうした変化は、冬条件に置かれてから2か月以降に生じることが時系列解析により判明しました。つまり冬眠に先立って、脂肪の効率的代謝系が発達するんですね。そして、冬眠が終了すると再び冬眠前のレベルに戻るんです」
また、脂肪酸の不飽和化にかかわる酵素群の遺伝子発現が増大していることもわかった。
「脂は低温だと固まりますが、不飽和結合が多いと低温でも流動性が高くなります。つまり低体温でも血液が凝固しない、もしくは組織の細胞膜が固まらないように不飽和脂肪酸を増やしているのでしょう」

さらに、長期間にわたって冬条件で過ごしたシリアンハムスターの白色脂肪組織の中には、「ベージュ細胞」と呼ばれる褐色脂肪細胞に似た細胞が出現することも確認できた。
「褐色脂肪細胞は体の震えを伴わずに熱を生み出す細胞で、もともと冬眠動物はたくさん持っているんです。しかし冬眠動物の白色脂肪組織内に、褐色細胞と同じように熱を産生するベージュ細胞があるということはこれまで知られていませんでした。マウスやヒトでの研究によって、褐色脂肪細胞やベージュ細胞が熱産生のほか代謝調節やホルモンのような役割をつかさどることも明らかになってきており、冬眠動物でこれら脂肪細胞がどんな働きをするのかは、非常に興味深いテーマの一つと言えます」

冬眠に向けて生じる白色脂肪組織の変化

脂肪を燃やす働きのある細胞群を活性化するスイッチがわかれば、ヒトの肥満対策になるかも!