公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「RNA干渉」という画期的ツールとの出会い

カブトムシの角をテーマに定めた新美先生だったが、非モデル昆虫の研究は容易ではなかった。
当初はショウジョウバエでわかっている形づくりの遺伝子が、カブトムシにもあるかどうかクローニングするだけでも一苦労だった。めでたくクローニングに成功しても、ではその遺伝子がどんな機能を持っているかを解析するとなると、肢や角など、それぞれの部位で発現がどう違うかを比較するのがせいぜいで、なかなかはかばかしい成果が上がらなかったという。
そんなとき、遺伝子の機能解析に画期的なツールが登場したという情報が新美先生に届いた。「RNA干渉」である。

RNA干渉とは、簡単にいうと、ねらった遺伝子のmRNAとかみ合うように人工的につくったRNAを細胞内に導入、特定の遺伝子の発現を抑制する仕組みを指す。

RNA干渉の仕組み

ターゲットとなる遺伝子のmRNAとかみ合うように人工的につくった二本鎖RNAを細胞内に導入すると、一本鎖になって、標的mRNAと結合することによってmRNAを切断し、遺伝子の発現を抑制する

「1998年に線虫でRNA干渉の仕組みが発見されたことを、ゲーリング先生の60歳の記念シンポジウムで知りました。これはすごいと思いましたね。なにしろ、例えば遺伝子組換えテントウムシを作ろうとすると、卵の段階の初期胚に遺伝子組換えのベクター*を注射して、それが成長して子を産んで、ようやく遺伝子組換えが起きたことがわかり、そのあと1~2世代かけて子を増やしてようやく遺伝子解析できるのですが、RNA干渉を使えば、遺伝子さえクローニングできれば、そこからつくった二本鎖RNAを導入して、その世代で遺伝子の機能を明らかにできるんですから」
*ベクター:遺伝子の運び屋のこと。遺伝子組換え操作にあたって、ゲノムに他のDNAを導入するために使う。動く遺伝子と呼ばれるトランスポゾンなどが用いられる。

しかし、新美先生は再び壁に突き当たった。当時のRNA干渉のやり方は初期胚に二本鎖RNAを導入して目的の遺伝子の発現を抑制するというもので、この場合、遺伝子の発現の抑制効果が幼虫段階までは持続しないという問題があった。新美先生が知りたかったのは、カブトムシなら角がどう形成されるか。カブトムシの角ができるのは幼虫からサナギになるときで遺伝子が発現するのもこのときだから、胚の段階でRNA干渉を行っても意味がないのだ。

ところが、ここでも新美先生は幸運に恵まれる。アメリカで研究を行っている研究仲間から、甲虫の場合、幼虫に二本鎖RNAを導入する「larval RNA干渉法」を使うことで、成虫の発生過程で機能する遺伝子の機能抑制に効果があることを見つけたという情報を得たのである。
「このlarval RNA干渉法は、非モデル昆虫であるカブトムシやテントウムシの遺伝子の機能解析を大きく前進させることになりました」
この新しいRNA干渉法を用いて、新美先生はいったいどんな発見をしたのだろうか?

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