公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

多様な昆虫には不思議がいっぱい

テントウムシとカブトムシの研究は、一見全然違うことをやっているように思えるかもしれないが、「進化によって昆虫の多様性がどのように生み出されてきたかを知るという意味では共通している」、と新美先生は言う。

「テントウムシは種によって特徴的な模様があります。近縁種間での模様の違いが、何によって生じているのかを明らかにしたいんです。また、テントウムシの模様は、鳥に狙われないように苦くてまずいことをアピールする警告色としての機能があります。興味深いことに、鳥に食べられないようにするため、キボシマルウンカとか、ヘリグロテントウノミハムシなど、テントウムシにそっくりな昆虫がいるんです。彼らはその模様をどのように獲得したのか、同じ遺伝子キットを使っているのか、まったく別の遺伝子を変化させたのかなど、テントウムシの模様一つとっても、昆虫の多様性に迫るさまざまなナゾがあります」

カブトムシの角にしても、角にかかわる遺伝子はまだ一部しかわかっていないので、まずは日本のカブトムシの角形成に必要な遺伝子ネットワークを徹底的に解明し、次にヘラクレスオオカブトやゴホンツノカブトなど、角の形や数、大きさなど多様性に富んでいる世界のカブトムシの角の形成メカニズムなどとも比較してみたいという。

こうした研究は、知的好奇心を刺激してやまない地道な基礎研究ではあるが、研究次第では応用研究につながる点も魅力だと新美先生は考えている。

新美先生は2009年に「翅の形成に必要な遺伝子の働きを抑えることで“飛ばないテントウムシ”をつくり出す方法を世界に先駆けて確立した」と発表して大きな話題を呼んだ。テントウムシは畑の害虫を退治してくれるので生物農薬*としてのニーズも高いが、畑にテントウムシを放しても飛んでいなくなってしまうのが難点となっている。そこで翅のないテントウムシというわけだが、テントウムシの固い前翅は自分のからだを外敵から守る鎧の役目を果たしているので、その前翅まで形成されなくなるとアリなどに攻撃されてしまうから、もっか翅はあるけれど飛ばないテントウムシを開発中で、これが実用化できれば、生物農薬としてより環境にやさしい農業生産に貢献することになるとのこと。また、からだのサイズに関係する遺伝子の存在もわかっているので、これもRNA干渉を使うことで、からだが大きくアブラムシをたくさん食べるテントウムシを開発できる可能性もある。
*生物農薬:化学農薬のかわりに、害虫の天敵(害虫を捕食したり、害虫に寄生して死亡させるなど)を利用して、防除しようとする方法のこと。人や家畜、環境に対して安全性が高いとされる。

新美先生が新たな研究ターゲットにしているのが、昆虫の翅の左右非対称性についてだ。
「テントウムシの翅は左右対称ですが、鳴く虫のうちスズムシとかキリギリスは、右と左でこすり合わせて鳴くための構造が左右で非対称だということがわかっていて、なぜ非対称の構造ができるのかを探っています」
新美先生によれば左右非対称性の研究は、哺乳類はもちろんさまざまな生き物でも行われていて、遺伝子レベルでわかっていることも多いという。例えばショウジョウバエ胚の消化管の後腸は左右非対称の配置になっているが、胚発生の早期は左右対称で、発生が進むにつれて後方から見て反時計回りに90度ねじれていく。
左右で非対称な翅は、こうしたヒトやショウジョウバエなど今までわかっているメカニズムとは違う原理にもとづいてつくられているのではないか、と新美先生は語る。
「スズムシもキリギリスも一般に親しみのある昆虫ですが、遺伝子レベルでの非対称性の研究は今までまったくなされていなかったんです。ただし、同じ鳴く虫にはコオロギもいて、こちらは左右対称です。それも不思議ですね」

このように、非モデル昆虫の謎はつきない。
「次世代シークエンサーやゲノム編集などの新しい技術が出てきたことによって、今までモデル昆虫でしかやれなかったことが非モデル昆虫でもできるようになって、両者の垣根は低くなっています。一昔前だったらどんなにおもしろい現象を見つけても遺伝子レベルで研究するのはとても難しかったけれど、今は比較的やりやすくなってもいます。もちろん、モデル昆虫は生命現象のさまざまな共通原理を明らかにする上では非常によい材料ですが、モデル昆虫にはないユニークな現象を持っているのが非モデル昆虫のおもしろさ。こうした生き物が持っている謎を解き明かし、進化の謎に迫る研究もこれからどんどん発展していくと思います。まずは自然に触れて、おもしろい現象を自分で見つけるところから始めてはどうでしょうか」

(2019年9月25日更新)

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