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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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細胞内の“宅配”を担う分子モーターの輸送力を物理の視点で調べる~東北大学大学院 工学研究科 林久美子先生を訪ねて~

立派な角を持つカブトムシに、背中の模様がカラフルなテントウムシ。なぜオスのカブトムシには大きな角があるのか、テントウムシの模様はどうしてできたのか、といった素朴な疑問を持ったことはないかな? 昆虫が進化の過程で獲得したユニークな形や多様性が生み出される秘密を、遺伝子レベルで解き明かそうとしているのが新美輝幸先生だ。
オンリーワンの研究がしたくて選んだ
カブトムシとテントウムシ

地球上で最も繁栄している生き物が昆虫。確認されているだけでも100万種にのぼり、全生物種の約50%、動物種のうちの約75%を占めていて、未知の種まで含めると、なんと260万から780万種にも達すると推定されている。
これほど数多くの昆虫の種の中でも、とくに人気が高いのがカブトムシだ。昆虫採集でカブトムシを捕まえて飼育した経験を持つ人も多いことだろう。また、公園などで遊んでいてよく見つけるのがテントウムシ。昆虫は苦手でもテントウムシは好き、という人も多いのでは?

そんなカブトムシやテントウムシの形や模様の秘密を解き明かそうと研究を続けているのが、愛知県岡崎市にある基礎生物学研究所の新美輝幸先生の研究室。最近も、角のもとができるちょっと前の段階のカブトムシの幼虫に対して、オスメスの性を決める遺伝子の働きを抑制すると、メスにもオスのような角が生えたとか、テントウムシの模様を決めるのはたった1つの遺伝子の働きによるといった興味深い研究を発表し、話題を呼んでいる。

さぞかし昆虫少年だったのでは?とうかがうと、「小学生の夏に昆虫採集をした程度で、虫屋と呼ばれる人たちの足元にも及びません。中・高校生時代はむしろ熱帯魚の飼育に熱中していたんですよ」とのこと。
大学受験のときに、バイオテクノロジーで食糧危機が救えるという話を聞いて農学部に進学したものの、やはり生物の基礎研究がしたいと、養蚕学の研究室に所属し、カイコの休眠に関係する遺伝子の研究で博士号を取得した。
今後どんな研究をしていこうかと考えたとき、昆虫をやるには遺伝子組換えの技術の修得は欠かせないと、スイス・バーゼル大学のウォルター・ヤコブ・ゲーリング(Walter・Jakob・Gehring)教授の研究室に日本学術振興会の海外特別研究員として留学。ゲーリング教授は、ショウジョウバエを使い生物の形づくりの根本となる「ホメオティック遺伝子」を発見し、生物の形づくりの理解に多大な貢献をした研究者だった。

「スイスに留学しましたが、日本に戻ってからどんな研究をしようと考えたときに選んだのが、カブトムシの角とかテントウムシの翅の模様だったのです」
なぜカブトムシやテントウムシなのか。新美先生はこう振り返る。
「モデル昆虫のショウジョウバエは洗練された遺伝子解析の手法が確立されていて、世界中の研究者がさまざまなテーマを追いかけていて熾烈な競争の世界です。同じ土俵で戦うのではなく、ショウジョウバエの研究から得られた成果を参照しつつ、まだ誰も手掛けていない分野のおもしろい現象を遺伝子レベルで探求したいと考えました。誰もやっていない分、飼育方法や実験方法なども含め自分で一から開発しなければならないけれど、そういう苦労はあっても、オンリーワンの研究こそやりがいも大きいと感じたのです」

新美 輝幸(にいみ・てるゆき)

基礎生物学研究所
進化発生研究部門 教授

1965年愛知県生まれ。89年名古屋大学農学部農学科卒業。93年同大学大学院農学研究科博士課程(後期課程)修了。博士(農学)。93年より同研究科資源昆虫学研究室にて日本学術振興会の特別研究員(PD)。95年よりスイス・バーゼル大学Walter・Jakob・Gehring研究室にて日本学術振興会の海外特別研究員。97年より名古屋大学農学部助手。2001年~05年科学技術振興機構・さきがけ研究研究者(兼任)を経て、15年より現職。趣味は日本百名城巡り。