公益財団法人テルモ生命科学振興財団

財団サイトへもどる

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

サイト内検索

テントウムシの多様な模様を決めているのはたった1個の遺伝子

カブトムシと同じ甲虫の仲間のテントウムシは、小さいけれど前翅の模様が鮮やかで、赤色と黒色からなる目立つ斑紋がある。とくに多様な模様で知られるのがナミテントウで、同じ種でも200以上もの異なる模様があることが知られている。

ナミテントウの多様な翅の斑紋

これほど多様な模様がどのようにして形成されるかというメカニズムも、これまでまったく不明だった。新美先生らは、2018年、長年ナゾだったナミテントウの翅の模様をつくり出す遺伝子の特定に成功。パニア(pannier)遺伝子であることを突き止めた。

パニア遺伝子は、ショウジョウバエでは背中の毛の生え方を決める遺伝子として機能している。ナミテントウの場合は、翅の模様を形成する過程で、黒色色素(メラニン)の合成を促すと同時に、赤色色素(カロテノイド)が沈着しないように抑制する働きを持つ。したがって、パニア遺伝子の働きをRNA干渉で阻害すると、前翅全体が赤い色になったのだという。さらに、この遺伝子はナミテントウだけでなく、ナナホシテントウでも同様に模様をつくる際に働いていることもわかった。

黒い翅がRNA干渉で赤くなったことがわかったときは、先生はどんな気持ちだったのだろう?
「それが、最初は効き方がちょっと弱くて、黒いところがほんの少し茶色くなった程度だったんですね。当時、メラニン合成にかかわる酵素の遺伝子が何種類かあり、そのうち一つをRNA干渉で機能を阻害すると、黒い部分が茶色くなる表現型があって、それにそっくりだったので、失敗かなと思っていたんです。でも、きちっと標的遺伝子の発現を抑えることができたものはきれいに赤く変わったので、このときは、ついに目的のものを見つけることができたとうれしかったですね」

ナミテントウの斑紋形成におけるパニア遺伝子の働き

ナミテントウの研究にあたっては、エサのアブラムシの確保や飼育方法の開発でも苦労を重ねたそうだ。
「当初は大学のキャンパスをひと巡りすればアブラムシを集めることができ、それをエサにナミテントウを飼育していたんですが、ある日一斉にキャンパスの草刈りが行われ、アブラムシが消えてしまって大慌て。そこで安定的に手に入れる方法を調べるうち、アブラムシに代わるエサとしてハチの子の乾燥粉末がいいということがわかりました。親戚の養蜂業者から蜂の巣を譲り受け、幼虫やサナギをすりつぶして凍結乾燥していたけれど、その手間がたいへんで研究の時間がおろそかになってしまう。もっといい方法がないかといろいろ探すうちに、健康食品のサプリメントで売られているという情報を得て、中国からの輸入品でまかなうことにしたものの、今度は中国産の乾燥ハチの子の安全性が問題になったことで熱処理されたものが流通するようになり、テントウムシのエサとしては使い物にならなくなって、再度代替品を探したり…と、さまざまな苦労がありました」

ハチの子の乾燥粉末はようやく安定的に入手するめどが立ったものの、生きたアブラムシも必要なので、アブラムシの飼育もしなければならない。アブラムシはソラマメが好きということで、ソラマメの種を買ってくるのだが、人間の食用のソラマメは高い。そこでレース用のハトのエサとして売られているソラマメを発芽させて使っていたら、その輸入がストップしてしまったこともある。このほか、水を与えるための容器の工夫にも知恵を絞ったという。
「水を与えるために弁当に使う魚型のしょうゆの容れ物に紙ひもを入れる手法を編み出して使っていたのですが、頻繁に取り換えるのも手間だったので、最近ではもっと大きなプラスチックケースを利用して改善しました」

研究室では、アブラムシが好きなソラマメも育てている

ナミテントウの成虫は、プラスチックのケースに入れて飼育

カブトムシは、エサを食べてかなり大きくなった幼虫を4~5月に購入し、飼育容器に入れて低温室に入れておくと、そのまま前蛹にならずに保持でき、実験の際に室温に戻せば、いつでも好きなときに実験ができるのだそうだ。
いやはや、非モデル昆虫の飼育もたいへんである。