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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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クロララクニオン藻との出会い

ところで、石田先生はどうして藻類や原生生物について研究するようになったのだろうか?

もともと生物には興味があり、筑波大学生物学類を選んだ。学生時代はワンゲル部に所属して北海道や北アルプスなどの山に登る山男だったが、クラス担任が藻類の研究者で、この研究室に所属すればサンプル採取のために沖縄や南の島に行けるし、フィールドワークが楽しそうだということで藻類の研究を始めるようになったという。

やがてライフワークともいえる研究テーマとの出会いがあった。大学院1年のとき、新種のクロララクニオン藻を石田先生が発見したのだ。

クロララクニオン藻は、まるでクモの巣を張るかのように細長い触手のような「仮足」を伸ばして移動と捕食を行うアメーバで、15ミクロンぐらいの大きさがある。アメーバでありながら緑色の葉緑体を持ち、光合成を行う。動物と植物の性質をあわせ持ったような藻類の一種だ。

葉緑体を持つことから以前は黄緑藻類に分類されていた。しかし、普通、藻類が持つ葉緑体は核を持たないが、クロララクニオン藻の葉緑体には核のような構造がある。また、葉緑体を包む膜(包膜)も、普通は2枚なのに4枚ある。つまり、クロララクニオン藻はアメーバ状の真核生物が、緑藻を細胞内に取り込むという二次共生で誕生したもので、藻類の多様性を創り出す原動力となった「細胞内共生」のメカニズムを解明するうえで、非常に重要な役割を持つ生物なのだ。

クロララクニオン藻
Amorphochlora amoebiformis
撮影:大田修平博士

クロララクニオン藻の祖先は葉緑体を持たない真核細胞。それが一次共生で葉緑体を獲得した緑藻を細胞内に取り込み(二次共生)、葉緑体を二次的に獲得

「大学4年のときのセミナーでクロララクニオン藻が取り上げられ、興味を持ちました。1989年当時、クロララクニオン藻は2種類しか見つかっていなかったんです。修士1年のとき、グアムから藻類のサンプルが送られてきて、研究室にいた学生たちで手分けして培養することになりました。ぼくが培養した株を電子顕微鏡で見ていたら、セミナーで見たクロララクニオン藻にとてもよく似ていて、これは新しい種類だとピンときて、詳しく調べたところ、思った通り新種だとわかったのです。その後もいろいろなサンプルから新種を3つほど立て続けに見つけました。それが藻類の研究にのめり込むようになったきっかけですね」

石田先生はその後、カナダのブリティッシュコロンビア大学に留学するが、それもクロララクニオン藻が縁となっている。
「原生生物や原核生物の進化と分類に関する研究で世界的に有名なトーマス・キャバリエ=スミスという先生がいるんですけど、その人が来日したときのシンポジウムに出席したら、キャバリエ=スミス先生が近づいてきて、『クロララクニオン藻をやっているのは君か?』と聞くんです。『同僚にクロララクニオン藻をやっている人を探している人がいる』というので、ブリティッシュコロンビア大学への留学が決まりました」

世界的な学者から名指しで声がかかったというわけだが、「マニアックすぎて、ほかにクロララクニオン藻をやっているのが世の中にいなかったからですよ」と石田先生は謙遜する。
ちなみに、新種のクロララクニオン藻は現在までに15種類ほどが見つかっていて、そのうち3分の2は石田先生の研究グループが発見したものだという。