公益財団法人テルモ生命科学振興財団

財団サイトへもどる

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

サイト内検索

“ヘンないきもの”がいっぱいの藻類・原生生物

そこまで石田先生を引きつける藻類研究の魅力とは何だろうか?
「藻類の大半は、原生生物のさまざまな系統群に散らばって存在しています。藻類を研究するというのは、言ってみれば原生生物を研究することなんですが、なぜ原生生物が面白いかといえば、動物にしても菌類、植物にしても、これらの細胞はすべて原生生物の進化の中で原型がつくられているから。ですからヒトを含めた真核生物の進化の道筋を解明しようと思ったら原生生物の進化を調べることが欠かせないのです」

「藻類は形も面白いし、変なものもたくさんいます」と石田先生。肉眼では見えない単細胞の小さな藻類ではあっても、顕微鏡を通して見ると、“ヘンないきもの”がいっぱい。

たとえば葉緑体を持ち、光合成を行って生活しているミドリムシ。動物と植物の両方の特徴を兼ね備え、豊富な栄養や医療や環境問題への応用可能性によって最近注目の的だが、細胞の表面にペリクルと呼ばれるらせん状の模様があり、このペリクルの働きによって、「ユーグレナ運動」と呼ばれる細胞を変形させる運動を行う。

★ユーグレナ運動の動画はこちら
日本生物物理学会ビデオライブラリー「ミドリムシのユーグレナ運動(すじりもじり運動)」
https://youtu.be/vOo0AMJUhmM

「南京玉すだれ」みたいに動くのは珪藻の仲間のクサリケイソウ。“筏”のように多数の細胞が並んで群体をつくっていて、複数の細胞が長軸方向に沿って同じ方向に動くことで、まるで「南京玉すだれ」のように群体が伸びたり縮んだりする。

★クサリケイソウの舞はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=ABpSRZSkPbs

“ガラスの家”を建てるのが、アメーバの一種ポーリネラだ。このアメーバはガラス質の殻で覆われていることから有殻アメーバとも呼ばれている。ポーリネラの殻はそれぞれ大きさや形状が少しずつ異なるおよそ50枚のガラス質(珪酸質)の鱗片で構成されていて、その鱗片を順序よく積み上げて新しい殻を正確に構築したうえで細胞分裂し、娘細胞が新しい殻で独立生活を始める。石田先生らの研究チームが2014年に「“ガラスの家”を建てるアメーバ」として動画とともに発表し、話題となった。

ポーリネラの光学顕微鏡写真:透明な殻の中にアメーバ状細胞が入っている様子。緑色のものは有色体と呼ばれる光合成をする細胞小器官

ポーリネラの殻の走査型電子顕微鏡写真:多数の鱗片が組み合わさってできている。鱗片の大きさがそれぞれ違うことがわかる

ポーリネラの殻構築過程:1本の太い仮足が、鱗片を1枚ずつ積み上げながら殻を構築していく

細胞分裂後に娘細胞の一つが新しく構築された殻に移動していく様子。

分裂を控えたポーリネラが、1本の太い仮足を伸ばし、鱗片を1枚ずつ内側から貼り付けてゆく様子の動画

目を持っている藻もある。藻にも目があると聞くとびっくりするが、鞭毛のある藻の多くは、光を受容する部位の近くに眼点があるという。中には人間の目のように、角膜様の構造を持ち、レンズで光を網膜様の構造上に結ぶ、まさに“目”を持つタイプの渦鞭毛藻もいる。角膜様の構造はミトコンドリアから、網膜様の構造は色素体から進化したといわれている。

いずれも「単細胞のくせに」と驚くほどの“多芸多才”なものばかりだ。

こうしたユニークな特徴が興味深いだけではない。近年、海洋の生態系では植物プランクトンと動物プランクトンによる食物連鎖に加えて、マイクロビアルループ(微生物ループ)と呼ばれる微生物の食物連鎖が働いていることが明らかになってきていて、自然生態系が健全に働くための重要な存在として、藻類などの原生生物がクローズアップされてきている、と石田先生。

「応用面でも原生生物はもっと注目されていいはずなのに、まだまだ未開拓です。薬の素になるものとか、人々の暮らしに役立つものが非常に多様性のある原生生物の中に必ずあると思いますが、まだ十分に調査しきれていません」

そんな中でも、地球温暖化など環境問題を背景に注目されているのが、藻類からつくるオイルだ。藻類には細胞内に脂質を多く含んだ藻が多数存在していて、その細胞から脂質を取り出して化学反応させればオイルを得ることができる。大量生産できれば藻類バイオ燃料の量産につながっていくだろう。

養殖用の魚のエサを藻類でつくる研究開発も進んでいる。藻類にはオメガ3不飽和脂肪酸のDHAやEPAを細胞内に豊富に含む種類があり、これに配合飼料を加えて魚に与えれば、DHAやEPAがたっぷりの魚の養殖が可能になる。また、ビタミン補強などの栄養強化をした藻類餌料を与え育てた動物プランクトンを稚魚に食べさせると、生存率が上昇するほか、奇形の出現率が低下するとの報告もあるという。

こうした有用な藻類を見つけるのも藻類研究の重要な役割の一つと、石田先生は語る。

原生生物は「プロティスト」というが、新しい種類のプロティストを見つけるのが大好きな石田先生は、新種発見の取り組みを「プロティストハンティング」と呼んでいる。
さしずめ石田先生は、トレジャーハンターならぬプロティスト・ハンターだ。
「知識も大切なんですが、やはり自分で見たり触ったり、身体を動かして経験することが何よりも大切。若い皆さんもぜひ、プロティストを見つける進化の道筋探しに取り組んでみませんか」

(2020年3月25日更新)